開業医での保存療法について

臨床においては、患者さんから様々な質問をうけることが多いでしょう。

 【患者さんからの質問例】 


・腰の痛みはいつまで続きますか?

・早く治す方法はありますか?

など、痛みに関して患者さんが主観的に感じる悩みは様々ですね。

腰椎椎間板ヘルニアや脊椎狭窄症など器質的な病態を示す方もいますが、腰痛症の多くの患者さんは原因がはっきりしない痛み、いわゆる非特異性の痛みを訴える方が少なくはありません。

このような場合には、レントゲン検査やMRIなどの画像所見には異常がなく、話を聞いたり痛み以外の悩みを聞いたりし不安を解消することが腰痛症の軽減に繋がるケースもあるでしょう。

筋筋膜性の腰痛症も同様で、生活習慣や睡眠リズム、自律神経の乱れにより筋肉の筋緊張が亢進していることもあるのです。

そのため、生活習慣の改善や睡眠の質を見直すなどそのような取り組みも診察時には重要となりますね。

一方、アスリートの患者さんからでも、

「私の腰痛には、これからどの様な運動をすればいいですか?」

と一般的な患者さんより具体的な内容を問われることが多いでしょう。

そのような場合、聞かれたらどう答えますか?

アスリートの腰痛を診るのが苦手な開業医の先生方は多いのではないかと思います。

事実、私もそうでした。

そのため、そのような場合にも同様にNBM(Narrative-Based Medicine)の技術や知識も必要となるのです。

NBMとは

患者さんとの対話の中から身体的、精神的、心理的、社会的に問題点を解消していく方法でEBM(Evidence-Based Medicine)といった根拠に基づく治療とはアプローチが異なります。

加えてアスリートの場合には特に競技による特異性なども考慮する必要があり、実際に手術で治す大学病院の脊椎外科医であった私にとって、競技の現場で発生する画像所見の無い腰痛はなかなか病態がつかめませんでした。

そのため薬を出す以外の良い対処方法を提示することが難しかったのも理由の一つです。

その反省から、腰痛の機能的病態分類とアスレティックリハビリテーション(AR)の研究を行っていますので、その知見を概説します。

アスレティックリハビリテーション(AR)

アスリートに限らず腰痛を起こす病態には、椎間板障害、椎間板ヘルニア、椎間関節障害、椎弓疲労骨折(分離症)、仙腸関節障害、筋筋膜障害、筋付着部障害、棘突起インピンジメント障害等があるのは既知の通りです。

またこれらの病態を引き起こすメカニズムとして、腰椎の特定分節(多くはL4/5)に繰り返される屈曲負荷によって椎間板障害、伸展負荷によって椎間関節障害、椎弓疲労骨折、棘突起インピンジメント障害が引き起こされ、脊柱起立筋への過負荷によって筋筋膜障害、付着部障害が生じ、骨盤輪に加わる負荷によって仙腸関節障害が生じます。

仙腸関節の可動性は他の関節に比べて平面関節であるため、可動性には乏しく動きが多岐に渡るスポーツ選手を悩ます原因の一つです。

仙腸関節に障害を起こすと二次的に腰椎にも負担がかかってしまい、更なる痛みの増悪を引き起こすことも珍しくはありません。

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そのためパトリックテストなどの手技も活用し、丁寧に原因を推察しなければならないのです。

アスリートの腰痛を診るときには、画像所見には頼らずに、丁寧な問診、脊柱所見、腰部の圧痛点の精査を行ったうえで神経の刺激・脱落所見の有無を診ていきます。

パトリックテストと同様に現場では、様々な整形外科的なテストを組み合わせることで病変を探していく必要があるのです。

特徴的な所見を以下に列記しますが、もちろん特異度・検出率が100%の所見はありませんので、診察所見を総合して病態を推定しなければなりません。

疼痛部位や程度に関しては再現性が重要であることは間違いないでしょう。

例えば、椎間板内圧上昇姿勢や動作にて腰痛が再現される場合には、前屈制限を呈します。

また、L4やL5棘突起に圧痛を認める場合には椎間板障害を疑い、ARとしては骨盤の前傾運動を促すためのハムストリングスのストレッチ、股関節の柔軟性の向上を目的とした運動を指導します。

加えて、障害分節の後弯位を防ぐために多裂筋を賦活化するエクササイズを指導することが重要です。

また、伸展や回旋動作時に腰痛が再現され、伸展時痛と障害側への斜め後ろ伸展挙動(Kemp手技)にて腰痛を呈します。

障害椎間の棘突起と椎間関節部の圧痛を呈する場合には椎間関節障害を疑い、若年者であれば分離症を疑い精査を進めます。

ARとしては骨盤後傾を促す腸腰筋や大腿直筋のストレッチ、伸展動作時に障害部位への挙動が集中しないように体幹深部筋を賦活化するエクササイズを指導します。

特に分離症の場合には偽関節の形成や再発予防が重要となる為、ARの重要性や保存療法に関して丹念に説明しなければなりません。

このように触診や動作観察などを通して痛みの部位を確認し、圧や負荷をかけたりし痛みの原因を推察していくことが重要でしょう。

痛みの再現性を確認していくことで、取り入れるべき運動療法や動作指導も行えるため新しい気付きもあるはずです。

気を付けなければならないのは、患者さんが痛みを訴えている場所が必ずしも病態の原因とはならないことです。

そのため、より精度をあげた治療や診察を行いたい場合には超音波画像などを活用して、動作時に筋膜の癒着や滑走を調べるといった方法も効果的でしょう。

紙面の都合で詳述できませんが、詳細は文光堂から刊行された「腰痛のプライマリケア」(図)をご参照下さい。

この様なアプローチで運動療法を指導すれば腰部障害の治療や予防になるのみならず、身体機能の向上に伴って競技パフォーマンスが高まることも期待されます。

コンディショニングやディコンディショニングに関しては苦手と感じる方も多いかもしれませんが、現代のスポーツ医学においては必須の知識であるともいえるでしょう。

そのため、選手の運動療法への動機づけもなるでしょう。

本来この様な「身体の使い方」はスポーツ指導者、コーチ、トレーナーの役割にようにも感じますが、故障してしまって選手を診るのは医療者ですので、整形外科医、理学療法士の役割となっているのが現状です。

しかし、われわれは手術を必要とする患者をスクリーニングするための外来診療を行ってきた弊害として、脊椎を関節として捉えた運動診や触診を疎かにしているのではないでしょうか?

もちろん、画像所見に基づいた正しい対処療法は必要ですが、必ずしもアスリートの成果や結果に結びつくとは限りません。

実際に臨床現場でアスリートを診ることで、整形外科の原点に戻って、運動器のプロフェッショナルとして診察を行うことの重要性が再認識されました。

ぜひみなさまも、もう一度整形外科の原点に戻り臨床現場での評価や推察NBMの技法を見直してみてはいかがでしょうか。

そのための知見や技法など参考となるように作成したのが腰痛の「プライマリケア」ですのでぜひ参考にして頂ければと思います。

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著者情報

金岡 恒治(かねおか・こうじ)MD,PhD
金岡 恒治(かねおか・こうじ)MD,PhD

早稲田大学スポーツ科学学術院教授

日本整形外科学会専門医・脊椎脊髄病医

日本スポーツ協会認定スポーツドクター

日本水泳連盟理事・医事委員長 ほか

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