近年手術の進歩により昔よりも低侵襲で手術が行えるようになり、手術後も早期に社会復帰やスポーツ復帰ができるようになってきました。そのためか満足にリハビリが行われず再発するケースも少なくはないです。腰部のリハビリで重要な体幹のmotor control機能について解説していきます。

なぜモーターコントロールなのか?

例をあげると、椎間板ヘルニアによる神経によるしびれが生じ、障害されている部分の手術を行うときに、数多くある中の手術方法から患者さんに最適と思われる手術を選択します。さらには手術後に日常生活に戻った際に再発のリスクはあるのか?なぜ椎間板ヘルニアが発生したのか?などを想像し身体機能が十分であるかの判断もします。そもそも身体機能が十分な状態になることで手術を回避できることもできます。
患者さんにとって最適な治療を行うためにモーターコントロールが重要になってきます。

脊柱のモーターコントロール

関節の運動を行う際には関節を1つのみまたぐ単関節筋、二つの関節をまたぐ多関節筋がありこれらの関節筋がバランスよく働くことで関節がきれいに動くことができます。どちらかの筋が動くべきタイミングで動かない、筋肉が弱すぎる強すぎるなどの原因により骨同士がぶつかり合うなどが原因となり痛みにつながることが多いです。

これは腰だけでなくすべての関節に言えることです。関節運動では単関節筋の機能が重要です。単関節筋が適切に働くためには“多関節筋が活動する前に単関節筋が収縮している”というモーターコントロールが非常に大切です。その機能不全の原因として①単関節筋の筋力低下と収縮遅延。②多関節筋の過活動の2つのパターンが想定されます。

脊柱には背骨から連なるジャバラのような構造で体幹筋群の活動によって安定性が生まれます。体幹筋群には背骨に直接付着する単関節筋の体幹深部筋であるローカル筋(インナーマッスル)と胸郭(肋骨と胸骨からなる)と骨盤を直接連結する多関節筋である体幹浅層筋であるグローバル筋(アウターマッスル)の二つに分類(図①)できます。 

このローカル筋とグローバル筋が効率よく働くことによって体幹の安定性が生まれてきます。腰椎は5つの背骨からなりローカル筋が先に収縮することにより腰椎が安定し胸郭と骨盤を繋ぐグローバル筋が収縮しても腰椎が安定して働くことができます。

もしこのローカル筋の収縮が遅れることで、グローバル筋の過活動によりモーターコントロールの機能が果たされないとグローバル筋の収縮力によって腰椎にストレスが集中し障害を引き起こします。またグローバル筋が不安定な腰椎を安定させようと胸郭と骨盤の間が離れないように働きます。この時にグローバル筋に強い牽引力がかかり腰部の筋に損傷が生じ筋筋膜性腰痛を引き起こします。(図②)

これらのモーターコントロール機能が低下すると最初は腰部に違和感や運動時痛程度で済みます。しかし腰部に何かしらの炎症が起き持続する腰痛にない椎間板ヘルニアなどの骨などに問題が起き、手術を検討する場合も出てきてしまいます。

椎間板ヘルニアなどの手術としては神経の圧迫を取り除く、不安定になってしまった腰椎を固定する手術などが行われます。しかし手術によってはローカル筋を侵襲して機能が低下しグローバル筋に負荷がかかり筋筋膜性腰痛など生じやすくなります。そのため手術を行ってもモーターコントロールが機能するようにリハビリや生活指導などが非常に重要になります。

体幹と四肢のモーターコントロール

体幹のモーターコントロールには体幹部のローカル筋とグローバル筋によるモーターコントロールの他に、体幹と四肢(腕や足)のモーターコントロールもあり適切に機能しないと体幹が不安定になることや四肢の関節障害、筋腱の牽引性障害を引き起こすことにもつながります。スポーツ動作では、初心者は最初、動作がぎこちなく無駄の多い動きになることが多いが、練習を重ねることで無駄のない動きになっていきます。

しかしこの動作の中でモーターコントロールが適切に働いいているかは数字として評価する方法は確立されていません。長年スポーツに関わり動作評価に精通しているコーチやトレーナーなどの経験的判断が行われています。しかし近年は動作中から筋肉の活動を計測してどのタイミングで筋肉が働いているか解析することで予防などに役立てられています。

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例えばサイドステップ(反復横跳びのような動き)を行う際の筋肉の活動を調べると片脚で支えているときはお尻の中殿筋、太ももの内転筋、ローカル筋の働きにより股関節、脊柱の安定性に関与していることがわかりました。そのため何らかの理由でコンディショニング不良によってモーターコントロールの機能が低下するとサイドステップ時に安定性を保つことができず腰だけでなく股関節や膝、足関節にも影響を与える可能性があります。(図③)

特にバスケなどのサイドステップを多用するような種目では股関節を安定させようと内転筋が働きますが不安定な状態が続くことにより鼠径部の痛みで有名なグローインペインなどの股関節障害を引き起こしやすくなります。(図4)

予防するためにはよく体幹トレーニングで用いられるサイドブリッジがあります。この姿勢で上方の足で体を支えるようにすることで内転筋とローカル筋が同時に働きサイドステップなどの動作が安定するエクササイズとなっています。

矢状面での体幹、四肢のモーターコントロール

まず矢状面は体を横から見たことを言います。

持ち上げるような動作(スクワット様)の際には、体幹筋群により体幹を安定させ、脊柱起立筋、大殿筋などの体背面の筋群を用いて持ち上げます。特に大殿筋の活動は大きく体幹筋と一緒に働くことで安定した持ち上げ動作を行うことができます。しかし十分に活動していない状態で持ち上げることにより脊柱起立筋への過度なストレスがかかり筋筋膜障害などの腰部障害、ハムストリングスへの負荷により肉離れなどを引き起こす可能性があります。モーターコントロール不良により骨盤が後傾することでこれらの障害を引き起こしやすくなります。(図⑤)

安定させるためには体幹筋とローカル筋が同時に働くエクササイズが選択されます。これにより矢状面での安定性が生まれ障害予防につながります。

まとめ

脊柱の様々な障害に対する体幹・四肢のモーターコントロールの重要性について述べてきました。椎間板ヘルニアなどの手術を必要とするような障害のメカニズムを把握し、手術後など障害のメカニズムに合わせてリハビリを行うことで術後の再発を防げます。それだけではなく手術が必要と思われてもリハビリによってモーターコントロール機能が改善されれば手術を回避することにもつながります。

日常生活やスポーツ現場などで様々なトレーニング、エクササイズが世の中に広く普及しています。障害予防やリハビリのためにどのエクササイズを選択するのは自由です。しかし今回解説したモーターコントロールの機能低下による障害メカニズムを念頭に置くことで行うべき正しいトレーニングやエクササイズが選択されることで障害予防や痛みの軽減につながります。

金岡 恒治氏
早稲田大学スポーツ科学学術院教授 整形外科医1988年筑波大学を卒業した脊椎専門の整形外科医師。筑波大学整形外科講師を務めた後に、2007年から早稲田大学でスポーツ医学、運動療法の教育・研究に携わる。シドニー、アテネ、北京五輪の水泳チームドクターを務め、ロンドン五輪にはJOC本部ドクターとして帯同。アスリートの障害予防研究に従事しており、体幹深部筋研究の第一人者。また、「腰痛のプライマリ・ケア」「一生痛まない強い腰をつくる」「金岡・成田式 腰痛さよなら体操(TJMOOK)」等の本も多数、執筆。

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腰痛メディア編集部
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