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ひとえに腰痛と言っても、「骨が鋭く痛い」「表面がピリピリする」など、その原因によってさまざまな種類の痛みが存在します。痛みは主観的なものであるがゆえ、他人に理解されがたいです。しかし、その強度や種類をヒントに原因を探ることができます。今回は、数ある腰痛の種類から、「筋肉の痛み」に焦点を当て、疑うべき疾患やその鑑別方法、治療方法を紹介します。

筋肉が痛くなるメカニズム

筋肉の痛みが発生する原因は、「筋・筋膜が関与する筋肉の痛み」と「神経の障害が関与する筋肉の痛み」の2つに大別できます。

筋・筋膜が関与する筋肉の痛み

筋・筋膜性腰痛

筋肉は周囲の組織とくっついてしまわないように、筋膜という膜に包まれています。この筋膜には侵害受容器(痛みを感じるセンサー)が豊富に分布しています。何かしらの原因で筋膜に過剰な負担がかかり炎症が起こると、侵害受容器の数が増加して痛みに敏感になるとされており、このように変化した筋膜は、いわゆる腰痛や肩こりの原因になると考えられています。また、腰や股関節の筋肉を繰り返し使うと、遅発性筋痛(いわゆる筋肉痛)が出現することがあります。

脊柱起立筋付着部症

脊柱起立筋付着部症は、体幹の筋肉を過度に使うアスリートに多い障害です。筋肉に無理な収縮を強いると、筋肉と骨との結合部分が損傷して発生します。骨盤の後ろ側を押して痛みが出る場合は、本症を疑います。

体幹筋肉離れ

体幹筋肉離れも上記の脊柱起立筋付着部症と同様に、スポーツ障害として発生することが多いです。過剰な筋肉の収縮によって筋・筋膜に強い負担がかかると、筋・筋膜の境界で損傷が起こり、肉離れが生じます。本症は、野球、やり投げ、カヌーなど急激に体幹をひねる競技種目で生じることがあるとされています。

神経の障害が関与する筋肉の痛み

神経の伝達障害により筋肉が硬くなってしまっている

神経が障害される腰の病気の大部分を占めるのが、腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症です。
腰から出ている神経は、背中にある大きな筋肉を支配しており、ダメージを受けるとこの筋肉への命令がうまく伝達せず、誤った電気信号が伝わり続けます。これにより筋肉は自分の意思に反して勝手に収縮し続けてしまい、硬くなってしまいます。筋肉が持続的に硬くなると、筋肉内の血管を押しつぶしてしまい血行が悪くなります。
その結果、血流不足の危険信号として腰痛が発生し、これに呼応するようにさらに筋肉が硬くなってしまうという悪循環に陥ってしまうのです。また、腰から出ている神経は足の先まで繋がっています。そのため腰痛のみならず、お尻、太もも、ふくらはぎ、足首付近の筋肉痛や痺れを伴うことが多いのが、神経が障害される腰部疾患の共通点です。

代償動作によって普段使わない筋肉を使い過ぎている

前述したとおり、腰から出ている神経は足の先までで連続しており、脚を動かすためのさまざまな筋肉に命令を出す役割を果たしています。そのため腰の神経が障害されると、運動麻痺とよばれる筋力の低下が生じることがあります。どの神経がダメージを受けるかによって麻痺する筋肉は異なりますが、膝を伸ばす、つま先を上げる、足の指を曲げ伸ばしするための筋肉が障害されやすいです。
運動麻痺が重度な場合、歩行などの基本的な動作が上手く行えなくなってしまう可能性があります。しかし、正しい動作が困難になってしまっても、それを補うように他の筋肉が働くことで、不利な状況に順応しようとする力を人間は持っています。これを代償動作と呼び、リハビリテーションの分野では非常に重要視される機能です。
しかし、代償動作によって本来の役割とは異なる仕事を任された筋肉には過剰な負荷がかかることになり、結果として筋肉の痛みが出現するケースがあります。

鑑別方法

筋肉の痛みの原因を鑑別する簡単な方法2つをご紹介します。どちらの方法も有用なものではありますが、痛みの原因は非常に複雑なため、完璧には鑑別できないことを念頭に置く必要があります。さまざまな可能性を視野に入れ、必要に応じて医師の診察を受けてください。

筋・筋膜が関与する筋肉の痛み

筋・筋膜が関与する筋肉の痛みの特徴の一つに、圧痛所見があります。圧痛とは組織を圧迫した際に生じる痛みのことです。圧痛がある場合は、圧迫部位の周辺が損傷し、炎症を起こしている可能性が高いです。転んでできた傷口を押すと痛みが出ることを考えると、容易に想像できるかと思います。腰痛がある場合、その部分を押してみて、圧痛があるかどうかを確認してみてください。

神経の障害が関与する筋肉の痛み

神経の障害が関与する筋肉の痛みの場合、上記した圧痛所見がない場合が多いです。なぜなら損傷しているのは筋肉そのものではなく、それを支配している神経だからです。神経を圧迫することができれば症状は出ますが、多くは体の表面から深いところにあるため直接触れることは難しいです。しかし、特定の位置に関節を動かすことで、神経を伸ばして刺激できるのです。これを神経伸張テストといい、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の診断の際に必須の手技です。今回は最も頻繁に使用される2つの神経伸張テストをご紹介します。

下肢伸展挙上テスト(Straight Leg Raising Test、SLRテスト)

仰向けになった患者の脚を、膝を伸ばしたまま上に持ち上げた時、太ももの後ろからふくらはぎやすねの外側に沿って痛みや痺れが出るかどうかを調べる診療法です。症状が出現した場合、第4腰椎と第5腰椎の間や第5腰椎と仙骨の間の腰椎椎間板ヘルニアを疑います。

大腿神経伸張テスト(Femoral Nerve Stretching test、FNSテスト)

うつ伏せになった患者の膝を、お尻に踵を近づけるようにして曲げた時、太ももの付け根や前側、すねの内側に痛みや痺れがでるかどうかを調べる診療法です。症状が出現した場合、第1腰椎と第2腰椎の間、第2腰椎と第3腰椎の間、第3腰椎と第4腰椎の間の腰椎椎間板ヘルニアを疑います。

治療

筋・筋膜が関与する筋肉の痛みも、神経の障害が関与する筋肉の痛みも、基本的な治療方針は同じです。しかし、痛みが強く我慢できない、運動麻痺が強いなど、症状が重度の椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の場合は手術適応になります。

安静

基本的には安静によって軽快します。スポーツによって痛めた場合は通常1週間程度休止します。痛みの軽減にあわせて軽い運動から再開し、復帰を進めていきます。

薬物療法

急性期には消炎鎮痛薬を用いて炎症を抑制する飲み薬のほか、張り薬(いわゆる湿布剤)が良く使用されます。

物理療法

温熱療法、超音波療法、牽引療法、マッサージ、鍼灸などさまざまな方法があります。お風呂に浸かって温めるだけでも効果が得られることがあります。

運動療法

弱くなった筋肉を鍛えたり、硬くなった筋肉を柔らかくしたりします。具体的には、ドローインなどの腹横筋強化や、ヒップリフトなどの大殿筋トレーニング、股関節の柔軟性確保のためのストレッチが効果的とされています。

結論

筋肉の痛みは、「筋・筋膜」と「神経」の障害が関与している可能性があります。これらを鑑別するためには、圧痛所見や神経伸張テストが重要とされています。基本的な治療法は同じであり、急性期は安静が第1選択です。
それでも改善が得られない場合は薬物療法、物理療法、運動療法を行います。ただし、症状が重度の場合は、手術適応となる可能性があるため、無理をせず医師に相談しましょう。

【参考文献】
1)成田崇矢編:脊柱理学療法マネジメント 68-77,2019.
2)寺島嘉紀、山下俊彦:筋・筋膜性腰痛の病態と治療
3)日本整形外科学会診療ガイドライン委員会 腰椎椎間板ヘルニアガイドライン策定委員
会 編 患者さんのための腰椎椎間板ヘルニアガイドブック 診療ガイドラインに基
づいて 25-32,2008

【参考】
日本整形外科学会

著者情報

Haya
Haya

保有資格

理学療法士

経歴

宮城県某医療系大学 理学療法学科 卒業

宮城県某病院 就職

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