皆さんこんにちは。
長引くコロナ禍の影響で、活動量が減った人は多いのではないでしょうか?多くの人が生活様式を変更せざるを得ない状況の中、腰痛を発症・悪化する人が増えてきています。
腰痛には、大きく分けて2つの種類があります。1つ目は病院で行う画像所見で原因が特定でき、病院で治療できる腰痛です。2つ目は、レントゲンやMRIで異常が見つからず原因が特定できない腰痛で、腰痛患者の約8割は原因が特定できていません。
今回は、原因が特定しづらく、どうやって治せばいいのかわかりづらい「見えない腰痛」について、体幹深部筋研究の第一人者として数多くの著書を出版し、テレビにも多数出演されている、整形外科医でもある早稲田大学スポーツ科学学術院の金岡恒治教授にお話を伺いました。

金岡先生のプロフィールについてお聞かせいただけますか?

―高校時代、水泳選手として活動していた時に肩を痛めたことがスポーツ医学を専門とするきっかけに
高校時代に水泳選手として活動をしていて、肩の痛みに悩まされていました。「肩を痛めた原因はなにか」、「どうすればこういった体の故障が防げるのか」を考え、強い興味を持ち、このことがきっかけでスポーツドクターを目指すようになりました。

―臨床で「見えない腰痛」に悩む多くの患者と出会い、ジレンマが活動の幅を広げた

1988年に筑波大学を卒業。当時、肩はマイナーであり、背骨の先生からの推薦で脊椎の専門医になりました。現在に至るまで1000人以上の患者の手術を行ってきましたが、整形外科に訪れる多くの患者は実は手術で治すことのできない見えない腰痛に悩まされてきていました。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの見える腰痛の治療方法はしっかり身についていましたが、手術では治すことの出来ない腰痛患者に対して、どのように対処をしていいのかわからず、誰も教えてくれず、教科書にも書かれていないので、見えない腰痛を訴える患者さんを診ることが苦痛になっていました。見えない腰痛を抱える患者の大きな不満は、「自分の痛みがどこから来ているのか分からない」、「薬でごまかすことしかできない」などで、どうすれば予防できるのかを聞かれることが多くありましたが、当時、適切な回答ができないことに無力感を感じていました。

―スポーツドクター、脊椎の専門医の両極端な2つの現場が自分の強みに変わっていく
私は日本代表水泳選手団のチームドクターとして2000年シドニー五輪、2004年アテネ五輪、2008年北京五輪に帯同し、2012年のロンドン五輪にはJOC本部ドクターとして帯同しました。競技の現場では多くの選手が腰痛に悩まされていて、特に見えない腰痛がある選手に対しては、薬などで痛みを抑えても根本的な対処法にはならず、どうにかしなければならないと強く感じてきました。そのため日本水泳連盟では腰痛予防プロジェクトを実施し、さまざまな対策をとってきた結果、最近では腰痛で悩む選手は減少してきています。
その対策の中に、体幹の安定性を高めて腰痛を予防する方法があります。私は体幹筋の筋活動解析の実験を行い、体幹を安定させる方法について研究してきました。その結果、ローカル筋をうまく使い、モーターコントロールを良くして運動することがとても大事だということがわかりました。このような理論を活かした運動療法が明らかになったため、現在では、外来に訪れる見えない腰痛の患者に対し、各病態に応じたエクササイズを指導して良い結果を得て、患者さんに満足していただけることが多くなっています。以前抱いていた無力感は解消されてきて、楽しく外来診療をすることができています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行後、先生のもとに訪れる腰痛を抱える患者に変化したことはありますか?

流行後は、新型コロナウイルスの感染を恐れ、病院を受診する患者は全体的に減りました。腰痛を抱える患者については、足がしびれて歩けないといったシビアな患者は変わらず受診されていますが、痛みが気になる程度の軽い症状の患者は減少して、病院に行く痛みの判断基準が少し上がった印象があります。

コロナ禍で生活様式が変化し、腰痛が発症・悪化した人が増えていると聞きますが、原因はなにが考えられるでしょうか?

新型コロナウイルス流行後の大きな問題としては、外出する頻度が減ったこと、家で過ごすことが増えたことだと思います。生活様式の変化で運動量が減ると、筋肉量が減り、体重が増え、同時にモーターコントロールの機能が下がることが考えられます。そうなれば筋肉の正しい使い方ができなくなり、腰痛を起こしやすくなるでしょう。読者の皆さんの中にも、私はそうかもしれないと思った人は多いのではないでしょうか。
繰り返しになります、ひとことで「腰痛」といっても、ひとによってその原因や痛みの発生メカニズム(病態)は違っていて、身体のどの場所に問題があるのか、どのような動作で痛くなるのかによってその対応は変わってきます。詳しくは、「URL」で説明していますので、ぜひ目を通してもらいたいです。

腰痛対策として今すぐ取り入れることが出来る日常生活での工夫があればお聞かせください。

テレワークや家で過ごすことが多い人は、同じ姿勢を長時間続けているかもしれません。
椅子に座るときに浅く座って背もたれに背中がついた姿勢では骨盤が後傾してしまい、腰の骨は後弯(猫背気味)となり、その結果として椎間板に負担がかかってしまいます。そのため時々は、骨盤を立てて(前傾)、背もたれから背中をはなしてやることが必要です。立って仕事することもおすすめです。どうしても家での仕事では人の目が減り、楽なだらしない姿勢になりがちですね。自分で自分の姿勢に意識を向けることがまずは大切だと思います。
ここで正しい姿勢と日常生活の中で簡単に取り入れることが出来る2つの動作を紹介します。

正しい座る姿勢

正しい座る姿勢

正しい座る姿勢

椅子に座った状態で、骨盤の前傾・後傾を繰り返す

骨盤前傾

骨盤前傾

骨盤後傾

骨盤後傾

※骨盤の前傾・後傾が出来ない人もいるかと思います。そういった人は特に注意が必要です。紹介した2つの動作を無理ない程度で毎日取り入れてください。

肩甲骨を寄せる

肩甲骨寄せる

肩甲骨寄せる

どちらも10秒程で出来る簡単な動きです。少なくとも1時間に1回は取り入れていきましょう。もし、1時間に1回は難しいと感じるようであれば、仕事がひと段落ついた時に行ってみてください。毎日の生活の中で習慣化することが腰痛予防にとても大切です。

最後になりますが、腰痛問題に対して、今後どのような取り組みを行っていきたいですか?先生の思いをお聞かせください。

一般的な医学部や整形外科医師の卒後教育では、手術をして治す必要のある病態についてはよく勉強します。しかし、見えない腰痛に対して、正しい評価をして正しい対処ができるような教育が十分に行われていないのが現状です。現在、見えない腰痛に対しては投薬による治療が主流です。痛みを抑える薬には、痛みの原因となる炎症を抑える消炎鎮痛剤だけでなく、最近は中枢に効く弱オピオイドも普及しています。しかし、脳で痛みを感じなくさせる薬は、痛みの原因に対する作用ではなく、単に痛みを感じなくさせる対象方法です。これがなにを表すかというと、痛みの根本は治っていないことです。痛みを引き起こしている体の使い方を変えない限りは、根本的な痛みを改善することはできません。痛みを引き起こす良くない動作を改善しなければ、あなたの痛みの場所に加わる負担はそのまま続いていき、痛みの原因はずっと残ってしまします。本来、理想的な対処の仕方としては、身体の機能を高め、組織への負担が減るような介入をしていくことです。そのためには運動療法が必要です。
病院を受診し、画像所見から手術を行う必要のない腰痛と診断された人は、ぜひ自分の痛みの原因となったきっかけや原因動作を正しく理解し、自分の腰痛にあった運動療法を取り入れてほしいですね。痛みの仕組みの根本的な改善を行い、健やかな毎日を過ごしてほしいです。

~金岡先生、ありがとうございました~
全国に約2,800万人もいる腰痛患者。その中でも約8割の人が見えない腰痛に悩まされています。自分の腰痛がどこから来るのか不安な人はきっと多いと思います。今回、コロナ禍で運動量が減ることで自分の身体にどういった変化が起こるか知るきっかけになったかと思います。正しい知識を身につけ、自分にあった対策を継続していけば、見えない腰痛は治ります。「腰痛メディア」では、皆さんの生活の質を第一に考えています。痛みがあれば生活のパフォーマンスが下がってしまいます。腰痛の根本的な原因を取り除くために、今後もコンテンツを通して一緒に学んでいきましょう。

今回お話をしてくださったのは・・・
金岡恒治
金岡恒治先生
筑波大学卒の整形外科医
早稲田大学スポーツ科学学術院教授 日本整形外科認定医
日本体育協会認定スポーツドクター
日本水泳連盟理事・医事委員長 体幹深部筋研究の第一人者

著者情報

庄司 しおり

株式会社ZEN PLACE アプリ開発担当者
大学病院で看護師時代に腰痛を発症し、7年間腰痛に悩まされていました。成田先生の運動療法でみるみる改善し、今では自分で腰痛をセルフコントロールできるまで状態が改善しました。同じく腰痛に悩む多くの人々に少しでも役に立てるよう情報発信していきます。

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