腰痛は人生において高確率で起こるライフイベントである。

腰痛の生涯発生率

あなたは自分の人生の中で、腰痛に悩まされる確率がどれくらいあるのかを知っていますか?
専門用語で生涯有病率や累積罹患リスクというのですが、日本における腰痛の生涯有病率は、男性 82.4%,女性 84.5%と 8 割を超えています。  同研究によれば、重症化した腰痛を経験した人は54,711 名中 2,039 名(3.9%)であり、また、腰痛治療に対し医療補償(労働災害あるいは 自動車事故)を受けた経験者は、100 人に 1 人(1.1%)で あったと報告されています。

生きている間に8割の人が腰痛になり、そのうちの3.9%が重症化、100人に1人が医療補償をされるほどの重度の腰痛になっているのです。

結婚するパートナーよりも腰痛と出会う確率の方が高い

腰痛が起こりうる確率をイメージしやすくするために、少し比較をしてみましょう。

例えばがんの生涯有病率は、2017年までの調査によると男性65.5%、女性50.2%となっています。  2人に1人はがんになると言われていますが、そのがんよりも腰痛になる可能性のある人の方が多いということになります。

比較する対象としてはおかしいかもしれませんが、ライフイベントという点で、問題視されて久しい結婚とも比較してみましょう。

厚生労働省が発表している、人口動態統計 によると、2019年(令和元年)の婚姻数は58万3000人、婚姻率は4.7%となっています。また、同じく厚生労働省の発表によると、50歳までに結婚していない人の割合である生涯未婚率は2015年時点で男性23.4%、女性14.1%となっています。
この数字は結婚していない人の割合ですので、それぞれを100(%)から引いて、
男性 100−23.4=76.6%
女性 100−14.1=85.9%

が、男女それぞれ50歳までに一度は結婚する確率と言えそうです。

この数値を腰痛になる確率と比較してみると、女性であれば同じくらいの確率で、男性に至っては、人生を生きていく間に、生涯のパートナーに出会うより、腰痛になる確率が高いのです。

そもそも腰痛はどうして起こりやすいの

山口県の整形外科専門のクリニックに4月から5月にかけて腰痛の治療のために受診した合計320名の患者が、どのような原因で腰痛になったのかを調べた研究が2016年に日本で発表されました。 それによると腰痛の原因の内訳は椎間関節性が22%,筋・筋膜性が18%,椎間板性が13%,狭窄症が11%,椎間板ヘルニアが7%,仙腸関節性が6%などです。残りの22%は診断不明の“非特異的腰痛”となっています。

注目して欲しいのは椎間関節性・筋と筋膜性・椎間板性など背骨を構成するものから発生する腰痛です。
腰痛の原因はがんや感染・事故による骨折などの原因もありますが、背骨を構成している部分の年齢を重ねることによる老化も大きな要因となるのです。

腰痛になるかもしれないと考えて行動していた方が良い

人間は生きていれば年老いていきます。そして、歳を重ね、筋肉などが衰えてくると、何かしらの病気になっていなくても腰痛になりやすくなっていきます。
人生において腰痛になる確率が高い以上、私たちは、自分が遅かれ早かれ腰痛になるかもしれない。そして自分だけではなく、周りにいる家族や友人たちもいずれ腰痛になるのだろうと考えて行動しておいた方が損はなさそうです。

腰痛になりにくいからだづくりを日頃から心がけることが大事で、
そのために健康なうちから腰痛にならないように予防の知識を蓄え、実践していくことは人生を苦痛なく過ごすために大切なことなのです。

腰痛の予防として運動することは効果的なのか?

運動療法の腰痛再発予防効果

腰痛が起きないように予防していくことが大事だということは分かったところで、実際にどうすれば良いのでしょうか?

先程の骨格をもう一度思い出してください。腰回りは背骨しかありません。

今度は自分の腰回りを見てみてください。骨だけではないですね。

そうです。腰回りに限らず人には筋肉があるのです。人間は骨格を軸として、その周囲を筋肉でさらに支えることによって体勢を維持しています。

そうすると「腰回りの筋肉をつけることによって背骨への負担を軽減することができれば、腰痛になるリスクは少なくなるのではないだろうか?」という仮説が出てきます。

果たして、筋肉をつけることによって腰痛は予防できるのでしょうか。

2010年に運動療法が腰痛の再発を減らすことができるか検証した研究が発表されました。  1113人が参加した5件の研究を検証したこの研究では。腰痛の発症した後の治療後の運動は、運動を行わない場合よりも1年後の再発率を減少させる効果的であるという結果が得られました。(0.5 95%信頼区間0.34~0.73)

この論文でいう運動とは、医師と相談のもと行われる運動で、どんな運動をしてもいいとは書かれていませんでしたが、予防法として運動が評価された形になります。

運動はどうやら腰痛の予防に効果がありそうですね

コアマッスルを鍛えて腰痛を予防しよう

では実際にどのような運動が腰痛の予防に効果的なのでしょうか。

結論から言えば、腰痛を予防するのには腰回りの筋肉を強化するような運動が望ましく、強化のターゲットにするのは体幹を支えるコアマッスル(≒インナーマッスル)です。

いわゆるコアマッスルとは、背骨とお腹の内臓を取り囲む体幹の筋肉群のことです。腹筋、大臀筋、股関節帯、傍脊柱筋などが協調して働き、背骨の安定性を提供している筋肉群です。

コアマッスルの身体への安定性とその運動制御の貢献は、腰痛の予防や運動治療の一環として有効なだけではなく、スポーツ医学の中でもパフォーマンスを向上させ、怪我を防ぐために使用されたりします。

コアマッスルについて詳しく書かれた論文が発表されていますので、それをもとに、腰痛の予防にはどのような運動が良いのか見て行きましょう。
2008年にAkuthota, Venuらによって発表された「Core Stability Exercise Principles
」という論文によると、 コアマッスルは遅筋線維と速筋線維の2種類の筋線維で構成されています。

遅筋繊維は主に深層筋層を構成しています。これらの筋肉は長さが短く姿勢の維持などに使われます。主な深層筋層には、腹横筋、多指筋、内斜筋、深層横筋、骨盤底筋、多裂筋などがあり、特に多裂筋は慢性的な腰痛を持つ人では萎縮することがわかっています。

一方で、速筋線維は表層筋層を構成しています。これらの筋肉は長く、瞬間的な運動を可能にしています。主要な表層筋層には、脊柱起立筋、外斜角筋、腹直筋、腰方形筋が含まれます。

最適な背骨の安定化には、深部および表層のすべてのコアマッスルがバランスよく必要なのですが、コアマッスルの中でも特に重要なのが腹横筋と多裂筋です。

腹筋の中でも水平方向に走る線維で腹部に帯状の筋肉を作っている腹横筋はコアマッスルを鍛える時には外せません。腹横筋と同じくらい大事なのが多裂筋で、これは背骨についている小さな筋肉群であり、脊骨を安定させるために重要な筋肉となります。

両筋肉群は体幹を安定させるために必要不可欠で、腹横筋と多裂筋は、肩を動かす0.3秒前と脚を動かす1.1秒前に収縮し、理論的には腰を安定させると同研究では書かれています。6
一方で、慢性的な腰痛患者では、手足を動かす前に行われるはずの腹横筋などの収縮が遅れていると報告されています。つまり、筋肉による骨格の支えが少ないために背骨への負担が多くなってしまい、腰痛になりやすくなってしまうのです。

コアマッスルのうち、特に腹横筋と多裂筋を鍛える運動が腰痛の予防に効果的なのです。

実際にどのような運動が効果的なのだろうか

同論文にはコアマッスルを鍛えるトレーニングも記載されていました。6
それによると、トレーニングの順序は
①体幹を意識すること
②背骨が曲がりすぎず、伸びすぎない中立の状態を維持すること
③バランスボールなどを使用して動きを加えていくこと
この順番で行います。

理由としては、体幹運動プログラムは、自身の筋肉のアンバランスさを修正するために、筋肉をほぐして動きやすい状態にさせることから始めるのがよいからです。

自身の筋肉の動きや存在をしっかりと認識してから、次にコアマッスルを鍛える際は腰に負担がかからないように姿勢を維持する静的な運動を通して行っていきましょう。

これがマスターできたら、バランスボールを使ったより高度な運動を追加していきます。

次に、姿勢を維持する運動をご紹介します。

姿勢を維持し、コアマッスルを鍛えられる運動として推奨されているのはカールアップ、サイドブリッジ(サイドプランク)、およびバードドッグ、プローンプランクとブリッジングです。

これらの運動の共通点としては動かないことです。筋肉を収縮させて、その状態を維持することによって筋肉を刺激させて筋力アップをしていきます。

激しく動くことはせずに骨盤を傾けたり、背骨を平らにしたりせず、中立の姿勢を維持することを繰り返します。

逆に言えば動くトレーニングは腰へ過度な負担がかかる恐れがあります。

一般的な腹筋運動や背筋を鍛えるローマンチェアエクササイズなどは腰に負担が多いと指摘されていますので気をつけましょう。

まとめ

腰痛は8割以上の人が悩まされるつらい症状ですが、運動を効果的に行うことによって予防できる可能性があります。

今まで当たり前に動けていたことでも、腰痛がひどいと動けなくなってしまうことがあります。起き上がるのも困難で、普通の生活もままならないばかりか、仕事も趣味もすることが困難になってしまいます。

健康なうちから、腰痛の予防する方法を知り、実際に行動に移して腰痛に悩まされない日々を送っていきましょう。

著者情報
松平 浩,磯村 達也,岡崎 裕司, 三好 光太,小西 宏昭;日本人勤労者を対象とした腰痛疫学研究;日本職業・災害医学会会誌 JJOMT Vol. 63, No. 6
https://ganjoho.jp/reg_stat/index.html,国立がん研究センターがん情報サービス
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html 厚生労働省 人口動態調査2019
Suzuki H, et al. Diagnosis and Characters of Non-Specific Low Back Pain in Japan:
The Yamaguchi Low Back Pain Study. PLoS One 2016;11(8)
Brian Kl Choi 1, Jos H Verbeek, Wilson Wai-San Tam, Johnny Y Jiang,Exercises for prevention of recurrences of low‐back pain,Cochrane Database Syst Rev
. 2010 Jan 20;(1):CD006555.
Akuthota, Venu1; Ferreiro, Andrea1; Moore, Tamara2; Fredericson, Michael3
Core Stability Exercise Principles
Current Sports Medicine Reports: January-February 2008 – Volume 7 – Issue 1 – p 39-44

著者情報

腰痛メディア編集部

こんにちは。 腰痛で悩む多くの方に役立つ情報を毎日お届け。それぞれが違った痛みの場所・違った痛みの度合い・違った原因をお持ちです。 一人一人が自分の腰の状況(病態)を理解し、セルフマネジメントできるようになることが私たちの目標です。記事のご意見・ご感想お待ちしております♬

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