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腰痛は多くの方が経験する可能性が高い整形疾患です。

みなさんの中にも腰痛を経験したことがある方はいるのではないでしょうか。

厚生労働省によると、日本の人口千人あたりで最も多い身体の不調は腰痛と言われています。

しかし、ひとことで腰痛と言ってもさまざまな原因があることをご存知でしょうか。

例えば、同じ姿勢をとり続けて筋肉が硬くなってしまうことや、無理な態勢や猫背などの悪い姿勢により筋肉や関節に負荷がかかり、痛みに繋がってしまうこともあるのです。

「椅子に座って長時間パソコンで仕事をしていたら腰が痛くなった」あるいは「重たい物を運んだら腰を痛めた」などは、比較的良く耳にする日所生活での腰を痛めた話でしょう。

腰痛の主な原因

日本整形外科学会では、腰痛の原因を以下のように解説をしています。

ひとつめは脊柱に由来する疾患として側弯症や腰椎分離症などの成長に伴って起こるもの、変形性脊椎症や椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変性すべり症など加齢により生じるもの、転倒による腰椎骨折なども腰痛の原因として紹介しています。

特に腰部椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症は有名ですので、一度は耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

腰部椎間板ヘルニアは、脊椎と脊椎の間にある椎間板が圧迫され飛び出してしまい、脊柱の中を通っている脊髄にあたって痛みが出る疾患です。

仰向けの状態で片方の足を膝が伸びた状態のまま上にあげたとき、足の後面に強い痛みが走る場合はヘルニアが疑われます。

また、脊柱管狭窄症については、脊椎が変形することで脊柱管という脊髄の通り道が狭くなり、脊髄が圧迫されることで痛みや痺れが出ます。特徴的な症状として、歩行時に徐々に足の痛みや痺れが強くなって歩くことが出来なくなり、座って休憩することで再び歩けるようになることが多いのですが、これを間欠性跛行といいます。腰部椎間板ヘルニアも脊柱管狭窄症も、症状が悪化すると足に麻痺症状が出てしまう場合もあり、状況によっては手術も必要になってきてしまうのです。

また転移癌といって、癌に罹患した場合に原発巣から血液やリンパ液によって全身に癌が転移することがありますが、骨へ転移することもあります。もしも脊椎に転移した場合、癌はそこで増殖し骨を破壊してしまうため、腰痛を引き起こしてしまいます。そして破壊された骨では身体を支えることが出来ず、骨折してしまう可能性があるのです。

このようにたくさんの原因がある腰痛ですが、実はレントゲンやMRIでもはっきりとした原因が分からないものも多くあります。

それを「非特異的腰痛」といいますが、厚生労働省によるとなんと約85%もの腰痛がその非特異的腰痛とされているのです。麻痺などの神経症状も出ていないため手術は必要とされず、レントゲンを撮っても「どこも悪くありませんね」「原因不明です」など言われた経験のある方もいらっしゃるかもしれませんね。

では、非特異的腰痛(原因が分かりにくい)はどうしてひき起こされるのでしょうか?

久しぶりに運動したときや、いつもより多く歩いたりなどしたときに筋肉痛になった経験があると思いますが、実は腰痛も同様に筋肉由来の痛みであることが多いのです。

筋肉は筋繊維と呼ばれる繊維が集まってひとつの筋肉となっていて、この筋肉により脊柱や骨盤が支えられています。

しかし長時間の立位保持や無理な姿勢で物を持ち上げること、激しい運動をすることなどで、脊柱や骨盤、それを支えている筋肉に強い負荷がかかり、筋繊維や関節を構成する組織が損傷してしまいます。

それを契機に炎症が起きて痛みとなってしまうのです。

また、筋力低下がある場合も支持力が低下するため、筋肉への負荷が強くなるので痛みの一因となることもあります。

他にも姿勢や動き方以外にも、冷えや疲労から筋肉が硬くなってしまい腰痛を引き起こしてしまうケースもあるので注意が必要です。

疲労がおきている部位に同じ負荷が加わると当然痛みが続いてしまいます。そのため痛みが出ないように注意することで、炎症は自然と治まり損傷部位は自然治癒力により修復され完治、痛みも消失します。

このように、“痛み”は自己修復を助けるための危険信号の役割ももっているのです。

しかし、無理な姿勢で同じ動作を続けることや、激しい運動を続けていては、一度おきてしまった炎症はなかなか治まりません。損傷した筋繊維はどんどん硬くなってしまい、そうすると血流も悪くなり、痛みが慢性的なものになっていってしまうでしょう。

痛みの原因となる負担を減らすためのヨガとピラティスの効用

では、どのように非特異的腰痛に対処していくべきでしょうか。重要なことは、痛みの原因となる負担をいかに減らしていくことが出来るかです。

まずは姿勢を整え、無理のない楽な動き方の獲得を目指しましょう。そのためには体の柔軟性が求められます。柔らかい筋肉は十分な収縮・伸長が出来るため、関節や筋肉そのものに負担の少ない動き方が可能となります。そうすることでパフォーマンスも向上し、筋力もしっかりと発揮することが出来ます。でも、具体的に何をすれば良いのか分からないという方も多いと思います。まずは股関節を柔らかくすることや、臥位や座位で骨盤の前後傾の動きを出してあげることがおすすめです。

ヨガでいう猫の伸びポーズを痛みが出ない範囲で行うこともおすすめです。

様々な腰痛体操が世に出ていますが、ヨガやピラティスも効果があります。

特にピラティスは、初めは負傷兵のリハビリテーション目的として開発されたものですが、次第にバレエダンサーやモデルのスタイル改善などに活用されるようになったエクササイズです。現在はフィットネスから医療現場まで幅広い分野で取り入れられており、多くのアスリートもパフォーマンス向上のために実践されていますので、腰痛予防にうってつけのエクササイズといえるでしょう。柔軟な動き方が出来るようになりますよ。

また腰部を支えることは体幹を支えることでもあるのですが、そうすると腹筋群も鍛えることにも効果が期待できるのです。最近ではインナーマッスルや骨盤底筋群などのトレーニング方法や腰痛体操などを目にする機会が増えたかもしれませんが、これらを鍛えることも腰痛解消のためには重要となります。

先程述べてきた対策は効果を得るには時間がかかります。運動が大切であることは分かっているけれど、今すぐにでも腰痛をすぐになくしたい、楽になりたい場合はどうすれば良いのでしょうか。そういう場合には、消炎鎮痛剤が使用されます。いわゆる痛み止めで、内服薬や湿布薬がありますね。

では、慢性的な腰痛になってしまって、消炎鎮痛剤があまり効かないときにはどうするのがよいのでしょうか?

痛み止めは消炎鎮痛剤以外にも、脳に作用して痛みを抑える薬や、末梢神経に作用するなど痛みの伝達をブロックする薬もあり、それらが使われることもあります。

しかしこれは腰痛の原因の炎症を抑えるのではなく、痛みを感じなくさせるものです。そのため痛みの原因となる姿勢・動きを変えていかなければ根本的な解決には至らず、さらに悪化させてしまう可能性があります。

薬以外では、鍼灸も痛みに対する効果があると最近論文が出てきています。実はヨーロッパでも治療として用いられるようになってきているのはご存知でしょうか。西洋医学と東洋医学療法の知識により治療の幅も広がっていくのでしょう。

腰痛の原因の特定には、前述したようにレントゲンやMRIなどが用いられますが特定出来ないことも少なくありません。しかし、痛みが出やすい動作や体に触れることで原因を予測することは可能です。原因や疼痛発生部位を予測出来たら、前述したような運動を実施して腰に負荷がかからない動き方を獲得します。

そのような対処で痛みを抑え、炎症を抑えることが大切です。

では誰が、どこで、非特異的腰痛を評価し、正しい方法を教えてくれるのでしょう? 原因や対策を知りたくて病院を受診しても「何も教えてくれなかった」という方は多いのではないでしょうか。残念ながら病院で行われる保険診療は腰部椎間板ヘルニアなど原因が特定出来る約15%の特異的腰痛の患者の治療がほとんどであり、身体機能を評価して正しい運動療法を指導することまで実施しているところは少ないかもしれません。リハビリテーション科がある病院であれば、理学療法士など専門知識をもった療法士が治療にあたることもありますので、そういった病院を選択することをおすすめします。

紹介記事:東京都内の腰痛専門のパーソナルスタジオ

しかし、現状はどこに行けば知りたいことに答えてもらえ、指導してもらえるのか。残念なことに、現在の日本では予防医療はまだ普及しておらず、課題として浮き彫りになっている部分なのです。今後スポーツ医学の研究によって身体機能評価と介入方法が明らかにされても、日本の医療・介護の仕組みではそれを実践する場がないことが現状です。これからの日本は超高齢社会になっていきます。そのため介護予防や予防医学の普及が日本の医療・介護にとって重要な鍵となってくるでしょう。

金岡 恒治氏
早稲田大学スポーツ科学学術院教授 整形外科医1988年筑波大学を卒業した脊椎専門の整形外科医師。筑波大学整形外科講師を務めた後に、2007年から早稲田大学でスポーツ医学、運動療法の教育・研究に携わる。シドニー、アテネ、北京五輪の水泳チームドクターを務め、ロンドン五輪にはJOC本部ドクターとして帯同。アスリートの障害予防研究に従事しており、体幹深部筋研究の第一人者。また、「腰痛のプライマリ・ケア」「一生痛まない強い腰をつくる」「金岡・成田式 腰痛さよなら体操(TJMOOK)」等の本も多数、執筆。

著者情報

腰痛メディア編集部
腰痛メディア編集部

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