腰痛の原因となるものはたくさんありますが、その中でも命に関わるものがあります。

それは「がん」です。

腰が痛くなったとき、まず最初にがんを疑う人はいません。普通は、単なる疲労による痛みとかぎっくり腰ヘルニアで、高齢者の場合は圧迫骨折を疑うぐらいです。

誰も腰の痛みが自分の命を奪う物とは考えません。

しかし、腰痛の原因で最悪を想定した場合、行き着くところはがんになります。

この腰痛が命に関わるかもしれない。そういう最悪の想定ができるだけで、もしかしたら自分の命を救うことになるかもしれません。

脊椎脊髄にできるがん

腫瘍には悪性と良性がありますが、脊椎脊髄にできる腫瘍も同じく悪性と良性があります、

良性腫瘍は、命に関わるわけではないですが、脊髄の中やすぐ近くに腫瘍が発生すると、直接脊髄を圧迫したり背骨(脊椎)を破壊することで疼痛やしびれ、運動麻痺などの症状を引き起こすことがあります。
また時間と共に肥大していき痛みや麻痺が強くなります。

神経鞘腫や髄膜腫が代表的な良性腫瘍になります。
脊髄を包む硬膜の中で脊髄の外側にできる腫瘍です。

まったく無症状で発見された場合は定期的にMRIを撮影して経過観察を行います。
症状が明らかな場合や脊髄への圧迫が強い場合は、手術によって腫瘍を摘出します。手術は、後方から椎弓を切除し、顕微鏡下に硬膜を切開して腫瘍を露出します。腫瘍が大きい場合は内減圧といって腫瘍の中身をある程度摘出してから腫瘍を脊髄や神経から剥離して摘出します。
摘出後、硬膜を縫合して閉鎖し創部を閉鎖します。これらの腫瘍は脊髄の外に発生しゆっくり増大するので、術前の症状が重症でも手術によって劇的に麻痺が改善することがあります。

脊椎にできる悪性腫瘍には、大きく分けて2つあります。
原発性腫瘍と転移性腫瘍です。

原発性腫瘍

原発性腫瘍の代表的な物として、上衣腫と星細胞腫があります。

上衣腫や星細胞腫は脊髄の中で発生する腫瘍です。腫瘍が脊髄を圧迫するため手足のしびれや感覚障害、運動麻痺などの症状を引き起こします。
症状は通常ゆっくり進行しますが、腫瘍内や周囲に出血を生じた場合は、急速に進行することもあります。

上衣腫

神経膠腫の一種で、脳や脊髄の中にできる悪性腫瘍です。
境界が明瞭なことが多く、手術によって摘出可能なことが多い腫瘍です。

星細胞腫

脳や脊髄の神経細胞の働きを助ける星形の細胞(星膠細胞)から発生する腫瘍です。
良性のものと悪性のものがあり、脊髄との境界は不鮮明なことが多く、腫瘍を全部摘出することは困難です。腫瘍の摘出状況と病理検査による悪性度の結果で放射線治療や化学療法を併用することもあります。

転移性腫瘍

原発巣が他にあり、脊椎や脊髄に転移したものです。
がんで亡くなった方の約30%では、骨に転移があると言われています。骨の転移で最も頻度が高いのが脊椎への転移です。

頚椎から仙椎まで脊椎のどの部分でも起 こりますが、頻度としては腰椎が多いです。なので患者さんの訴えとしては、腰痛が最も多いという報告があります。

どの部位にできたがんでも脊椎に転移する可能性はありますが、中でも特に転移しやすいがんを3つ上げたいと思います。

「乳がん」「前立腺がん」「肺がん」

この3つのがんは、特に骨転移しやすく乳がんと前立腺がんでは7割、肺がんでは5割の患者さんに骨転移がみられます。

乳がんの骨転移

乳がんが転移する場合、約30%の患者さんで最初に骨に転移が起こります。
血液の流れにのって乳がん細胞が骨に移り、そこで分裂・増殖するのです。骨にあっても「骨のがん」ではなく、あくまで乳がんですので、乳がんとしての治療を行います。乳がんの手術をしてから10年以上たっても骨に転移することがあります。転移の多い部位は、腰椎、胸椎、頚椎といった脊椎。
続いて骨盤、肋骨、頭蓋骨、上腕骨、大腿骨などになります。乳がんの場合、肘から先の腕や手、膝から下の脚や足の骨にはほとんど転移は起こりません。

前立腺がんの骨転移

前立腺と近い位置にある骨に転移がしやすいです。前立腺は恥骨などの骨盤や腰椎など近くに骨が存在しているため、早い段階から骨転移を起こしやすいのです。

肺がんの骨転移

肺がんでの骨転移は、肝臓、肺の次に起こりやすいです。
転移が起こりやすい骨は、腰椎や胸椎などの脊椎が最も転移しやすく、続いて骨盤、大腿骨となります。
肺がんは遠隔転移しやすいがんで、膝より下や、肘よりも先の末梢の骨にも転移病変を作ります。体幹部分の病変ももちろん多いのですが、末梢の骨にも骨転移が起こりうるのが肺がんの骨転移の特徴です。

最初に述べたように、どんな医者でもまず最初に腰の痛みで骨転移を最も疑う医者はいません。(既往歴が分からない、初診の患者の場合)

他の腰痛と同じで、X線検査や明らかな痺れ、麻痺があればMRI検査が最初に行われます。

最初の時点で、MRI検査を行っていれば骨転移を早い段階で疑うことができます。X線検査では、残念ながら腰椎が変形しているのは分かりますが、それが単純な圧迫骨折によるものなのか骨転移による変形なのかは判別できません。

もし採血などを行わずX線検査のみの場合、すべり症や変形性脊椎症として診断されたり、転移していても腰椎の形がきれいに保たれている場合なら、湿布薬を処方され様子見になるかもしれません。そうなると骨転移の発見はどんどん遅れていきます。

骨転移している腰椎をMRIで撮ると、通常の圧迫骨折とは明らかに違う画像になります。
通常の圧迫骨折は、潰れている部分と正常な部分がはっきりとしていますが、骨転移の場合、まだらで境界がはっきりしていないです。
もしくは、圧迫骨折の場合椎体の前方部分から潰れますが、骨転移の場合前方部分は正常なのに後方部分が潰れたような画像になったりして、経験のある医師なら簡単に判別がつきます。

中には典型的ではなく判別が難しいものもあります。そのときは造影MRI検査を行います。

骨転移の症状

骨転移すると様々な症状が体に現れます。痛みや骨折、痺れなどです。

痛みは骨転移の部位に応じて、腰椎に転移すれば腰痛、胸椎なら背中の痛み、大腿骨なら股関節や太ももの痛み、骨盤なら腰骨のあたりの痛み、上腕骨なら腕の痛みなどが現れます。このような痛みは骨転移以外の原因でも現れますが、数日にわたって痛みが消えないような場合には、骨転移の可能性も考えなくてはいけません。絶対とは言えませんが、安静にしていても痛みが引かない、変わらない場合はがんによる痛みの可能性があります。

骨転移するとその部分の骨がもろくなります。なので骨折が起こりやすくなります。特に体重のかかる部分の骨が弱くなり、骨折に至ることが多いです。通常、かなり激しい痛みを伴います。腰椎・胸椎では圧迫骨折を起こします。大腿骨が骨折すると立っていることもできなくなります。

上記の良性腫瘍でも書きましたが、脊椎転移によって脊髄が圧迫され、手足のしびれや麻痺が現れることがあります。この場合は急いで治療をしないと、しびれや麻痺が永久に回復しない場合があります。

転移した骨からカルシウムが溶け出す結果、血液中のカルシウム濃度が高くなることがあります。これを高カルシウム血症といいます。カルシウム濃度が高くなると、のどが渇く、胃のあたりがむかむかする、尿の量が多い、お腹(なか)が張る、便秘気味になる、なんとなくぼーっとするなどの症状が現れます。治療が遅れると脱水症状が強くなり、腎臓の働きが落ちてしまうので、早めの治療が必要です。

このような症状にあてはまる場合、すぐに病院へ行ってください。

骨転移の検査

原因のがんが特定され、症状的に骨転移が疑われたとき骨シンチグラフィーやPET-CTをします。

どちらも核医学検査と呼ばれるもので、がん細胞に取り込まれやすい放射性物質を投与して検査を行います。

骨シンチグラフィー

骨はその形を維持しながら、常に新しい骨組織に置き換わっています(破壊と再生を繰り返しています)。骨に病気が発生すると、この破壊と再生のバランスが崩れ、骨を作りすぎてしまったり(骨造成、骨硬化)、作らなかったり(骨吸収、溶骨)といった現象が起こります。骨シンチグラフィー検査はこの骨造成を反映する検査であり、がんが骨へ転移しているかどうかを検出するのに頻繁に利用されます。がんが骨に転移しているかどうかは、がんの治療を進めていくうえで重要な情報となります。それ以外にも骨折や骨髄炎、関節炎の診断に利用されることもあります。
検査は、骨シンチグラフィーの薬の注射を行い、薬が全身に浸透する注射後3時間ころから約30分程度の撮影を行います。

PET-CT

骨シンチグラフィーは骨転移を調べる場合がほとんどですが、PET-CTは、骨転移以外にも全身に転移したがんを調べることができます。

がん細胞は、勝手に仲間を増やして大きくなり、転移などを起こして広がります。その活動のエネルギーの元はブドウ糖で、がん細胞は正常細胞の何倍もの量のブドウ糖を取り込むため、18F-FDGを注射すると、この薬もがんの病巣に集まります。薬が集まったところからは放射線が多く放出されるので、それを捕らえて画像化することにより、がんの病巣を見つけ出すことができます。

ただ、全てのがんが発見できるというわけではなく、脳、扁桃腺、乳腺、肝臓、腸管には自然集積があります。また尿として排泄されるので、腎から膀胱にかけても集積が見られます。これらの部位を調べるのには不向きです。

骨転移の治療

骨転移の治療には大きく「手術」「薬物療法」「放射線治療」があります。

手術

骨転移の手術の場合、がんの転移が原因の骨折に対して、生活の質を保つための手術を行う場合が多いです。圧迫骨折や人工関節の手術などをしてなるべく患者さんが普段の生活を送れるようにします。脊髄の麻痺が切迫している場合には除圧術という、神経の圧迫を解除する手術を行うこともあります。

がんの治療として骨に転移した病巣を取る手術を行うことは多くはありません。しかし、病巣が限局していて取りきれる範囲である場合など、特定のがん種の特定の状況では手術を行うこともあります。

薬物療法

一部の病態ではがんに対する薬物治療がよく効果を示すので放射線治療よりも薬物による全身療法が優先されることがあります。

とくに乳がんや、前立腺がんではホルモン療法や、化学療法の効果が期待される場合はそちらが優先されることがあります。

薬剤が効きやすい遺伝子変異をもつ肺がん、リンパ腫などでも、骨転移による症状が少なければ、まずそれぞれの腫瘍に対する治療を行うことがあります。

また鎮痛剤を用いて、痛みをコントロールすることも重要です。

放射線治療

放射線治療は様々ながんの治療で用いられますが、骨転移に使われる場合、完治ではなく、痛みを軽減させる目的で使用されます。

手術による治療と比較すると負担は小さい放射線治療ですが、注意する点があります。それは、一ヵ所の病変部位に対する治療回数は、基本的には一回という点です。これは照射される部位によって、耐容線量という、正常組織に障害を起こさない線量が決まっているからです。なのでその線量を超えないように放射線治療は行われます。

骨転移が生じても長くがんと共に歩む患者さんが増えてくると、一度放射線治療を行っても、数年後に再び増大してくるケースがみられるようになってきています。もし背骨の骨転移であれば、二回目の治療でさらに10~20回照射すると、脊髄の耐容線量を越えてしまい、合併症の危険性が高まってしまいます。

放射線治療は、タイミングが早過ぎれば、将来、再増大の懸念を残すことになり、タイミングが遅れると、骨折や麻痺の危険性が高まることになるのです。

実際の診療の場面で目安となるのは、痛みなどの症状の出現する時期です。画像検査で骨転移がかなり目立つようになっても、全く無症状の場合には放射線治療は見送られることが多いと思います。一概には言えないのですが、症状が出てきた頃を放射線治療の開始時期と判断するのが一般的です。

腰痛とがん まとめ

今回あげた3つのがんは、比較的検診で見つかる可能性が高いがんです。

前立腺がんの検診は、採血だけで終わります。

乳がんは、検診の重要性が浸透してきたと思います。検診でも構いませんが、乳がんは自分で触診して発見できる数少ないがんです。自己防衛のためにも時々触診してみてはいかがでしょうか。因みに、男性でも乳がんになるので女性の病気だからと決めつけるのは良くありません。

肺がんは、タバコを吸っている人やじん肺になる可能性がある人はしっかり検診を受けていますが、タバコを吸っていなくてもなる可能性は十分あります。
肺がんは、検診以外でも風邪をひいたときに撮った胸部レントゲンで見つかることもあります。

検査をせずに病気が見つかることはありません。肉体的、精神的、金銭的にも負担を伴う場合もありますが、何か気になることがあったら必ず検査を受けてください。

腰痛は誰しもが経験する非常にポピュラーなものです。
でもその痛みの原因には、自然に治るものから手術が必要なもの、そして命に関わるもの様々です。

命に関わる腰痛があると頭の片隅にでも留めていただいたら幸いです。

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著者情報

腰痛メディア編集部
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