筋筋膜性腰痛とは

腰痛は器質的な要因があるものと器質的な要因がないものにわかれています。器質的な要因とは、椎間板の変性・脱出、骨折など骨やその周囲の組織に何らかの原因があることをさします。一方、器質的な要因がないものは上記の問題がないにも関わらず、腰痛を引き起こしている状態を指します。腰痛の70%はこの非器質的要因のものが多いとされています。今回ご紹介するのは、筋と筋肉の間を介している筋膜の障害によって引き起こされる筋筋膜性腰痛症についてご紹介していきます。

症状と特徴

筋筋膜性腰痛症は、腰の骨や骨と骨の間にあるクッションの椎間板に異常がなく筋肉や筋膜が傷ついて痛みを生じる障害です。
腰の周囲には骨の近くに存在する多裂筋・背中の外側に位置する腸肋筋・その間に位置する最長筋がありこれらを脊柱起立筋と呼び、これらの筋肉が腰を反らすこと立っている姿勢で背中が丸まらないように、姿勢保持に関与する筋肉とされています。背中の筋肉は何層にも分かれており、脊柱起立筋の表層を広背筋・腰背筋膜が覆っています。このように背中の筋肉は複雑に絡みあい骨に付着しています。
筋肉について詳しく話していきますと、。皆さんご家庭で、お肉を食べる際によくみてみるとお肉がいくつかの線維構造になっているかと思います。人間も同様で筋肉は一つ一つ線維構造になっておりその線維が束状となって一つの筋肉が構成されています。これらの筋肉は、筋膜という膜を介して筋一つ一つが分かれています。この筋肉や筋周囲膜に何らかの損傷によって引き起こされる腰痛を筋筋膜性腰痛症といいます。
この筋筋膜性腰痛症には、似たような障害も存在します。その他の腰痛症との鑑別を見ていきましょう。

鑑別方法

腰痛の原因が筋筋膜性のものか否か腰痛という症状のみでは鑑別がつきにくいものです。

しかし、腰痛に随伴する症状で危険性が高いものは判断することができます。時に腰痛の原因が直ちに処置が必要な場合があるため、直ちに医療機関に行くべき随伴症状と鑑別をご紹介していきます。

腰痛+α 排尿困難

一つ目は、排尿が困難になっているか否か確認しましょう。尿を貯める臓器の神経は腰の神経が枝分かれし神経が束状になった場所が支配しています。この神経が障害されると尿がでない・出にくいなどといった排泄が障害されます。尿は体内の毒素を排泄していますが、この尿が体外へ排出できなくなれば体には悪い毒素が溜まってしまい、人体に悪影響を及ぼします。

そのため、腰痛と+αで尿の出が悪い・出ないといった症状が伴って生じた場合には直ちに医療機関に受診しましょう。

腰痛+α しびれ

二つ目はしびれです。筋筋膜性腰痛症は、筋肉や筋膜の障害であるためしびれを伴うことはありません。痺れは、神経の圧迫などにより生じることが多く筋筋膜性腰痛症とは異なります。そのためしびれが出現している場合は直ちに医療機関を受診し精査してもらうことをおすすめします。

腰痛+α 筋力低下

三つ目は、筋力低下です。高齢者の動かないことによる筋力低下を除き力の入りにくさが出現した場合直ちに医療機関への受診をおすすめします。特に下半身の脱力感や筋力低下は、椎間板ヘルニアなどの主たる症状です。その中でも、膝の伸ばす筋肉が弱ってきた、足首が上がらない、足首が下に蹴り出せない、足の指が曲がらない、伸びないなどといった症状が特徴的ですので、上記の筋力低下があった場合は医療機関に受診しましょう。

腰痛+α 感覚障害

四つ目は感覚の異常です。筋筋膜性腰痛症では神経系が問題となる事はまずないです。感覚の異常は、神経の圧迫や背骨の感覚を統合する部位になんらかの異常があった場合に生じます。そのため、感覚の異常があった場合には医療機関を受診しましょう。感覚の異常も様々で、しびれも異常ですし、触った感覚が鈍く感じる場合や反対に敏感に感じやすくなっている場合なども同様です。また、温かい感じや冷たい感じが伝わりにくいあまり感じないことも異常感覚の一つです。感覚の異常は目に見えない障害ですが、日常生活において大きな障害になることが多いのです。例えば、お風呂に入ろうとした際に下半身の感覚が鈍くなっている場合、お風呂の温度を正確に把握することができず火傷の原因になってしまうことしばしば耳にします。そのため感覚の異常があった場合は、直ぐに医療機関へ受診しましょう。

腰痛+α 歩行障害

最後は、歩行障害です。歩行障害とは歩きにくい歩けないといった症状ですが、腰になんらかの異常がある方は、「500mくらいはなんでもなく歩けるけど、それ以降になると足が怠くなる、足が出なくなる」などといった訴えをすることがあります。このような症状を間歇性跛行と言います。腰部脊柱管狭窄症に多い訴えです。これは神経と並走する血管や神経の異常で生じます。筋筋膜性腰痛症であれば、神経や血管に異常がないことが前提となるためこのような症状は随伴しません。そのため、このような症状がある場合、医療機関へ受診しましょう。

他の障害との鑑別はご理解できましたか。しびれ・感覚障害・筋力低下・排尿障害・歩行障害があった場合は、必ず医療機関に受診しましょう。

家庭でできるストレッチ

次にご紹介するのは、筋筋膜性腰痛症に対して実施すべきストレッチです。メインで行うのは腰部周囲のストレッチになりますが、腰は胸椎という背骨と股関節の間にある部分です。そのため隣接する関節が動かなくなった場合に腰に負担がかかることが多く、主たる要因が隣接する関節であることが多々あるのも現状です。そのため、腰部のみでなく胸椎・股関節周囲のストレッチも併せてご紹介していきます。

腰部のストレッチ

腰部のストレッチ一つ目は両足抱えです。方法は、仰向けの状態がスタートで両足を体のほうに近づけるようにして膝と股関節を曲げます。そこから、足を体に近づけたり離したりしながら腰の筋肉を伸ばします。ポイントは呼吸です。腰の筋肉は呼吸に関与する筋肉が存在するため、呼気で足を体の方に近づけ、吸気で近づけた足を離します。必ず呼吸法方法守って実施しましょう。

腰部のストレッチ2つ目は股関節捻りです。仰向けに寝た状態で、両膝を軽く曲げ両腕を90°外側に開いた状態がスタートポジションになります。スタートポジションから両足を左右に捻っていきます。この際、右膝を倒すのであれば左肩が浮かないように注意しながら実施してください。また無理矢理捻ろうとすると腰に痛みが出現することがあるのでゆっくり実施してください。

胸椎・股関節のストレッチ

隣接関節のストレッチ一つ目は、胸椎のストレッチです。胸椎は肩甲骨の動きに伴って動くので、肩甲骨を動かしながら胸椎の動きを促します。肩甲骨の運動ですが、肩を90°外側に開き、肘を90°程度曲げた姿勢がスタートポジションです。スタートポジションから両肘をつけるように動かす方向と逆に両肘をできるだけ離すように開く運動を交互に行います。この動きは、肩甲骨の内転と外転という動きになります。肩甲骨の内転と外転運動に伴って、胸椎は反る動きと丸まる動きが相対的に生じます。胸椎自体の可動性は大きくないため、肩甲骨を動かして相対的に胸椎のストレッチを実施していきましょう。

隣接関節のストレッチ二つ目は、股関節のストレッチです。股関節の筋肉はたくさん存在しますが、特に実施すべき部位はお尻の筋肉です。お尻の筋肉は靭帯や骨を介して、腰の筋肉と繋がっています。そのためお尻の筋肉が硬くなってしまうと、腰へ負担がかかってしまうためしっかりストレッチしましょう。

方法は仰向けで両膝を曲げた状態がスタートポジションです。一方の足を膝の上に置き、置いた足を開排します。その状態から足が乗っている足を両手で体のほうに近づけます。開排している方のお尻の筋肉がストレッチされます。

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著者情報

金岡 恒治(かねおか・こうじ)MD,PhD
金岡 恒治(かねおか・こうじ)MD,PhD

早稲田大学スポーツ科学学術院教授

日本整形外科学会専門医・脊椎脊髄病医

日本スポーツ協会認定スポーツドクター

日本水泳連盟理事・医事委員長 ほか

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