アスリートの腰痛は選手生命に関わる可能性がある極めて重大な疾患であると考えます。
日々、技術向上のために体幹の調整や荷重などを意識して関節や筋肉を動かしています。腰痛は一度感じてしまうと全く痛みを感じなくなるまでに時間を要することが多く、またアスリートにとって全く動かない日は一般人と比較しても少ないと考えられるため、腰痛の改善は早めに行うことが重要です。アスリートの競技特性によっては体の使い方が異なるため、どのようなアプローチが必要なのか知ることで早期改善に努めることができます。ここではアスリートの腰痛に対して、どのようなアプローチが有効であるか明らかにしていきます。

腰痛の原因

 一概に腰痛といっても疾患を持つ方や、そうでない方とさまざまな条件で腰痛は発症してしまいます。では、どのようにして腰痛が起きるのでしょうか。そもそも腰痛は神経、筋肉、関節(骨)に負担がかかることで感じやすいとされています。アスリートで多いのは筋肉や関節(骨)によるものが多いです。活動することによって筋肉と関節の両方、もしくはどちらかが腰に負担がかかり腰痛を引き起こします。アスリートによくあることは練習頻度や練習強度の増加など練習を重ねることで腰部捻挫や筋疲労といった筋肉そのものに負担がかかっていることもあります。疲労がたまっている時に急激なひねりや 前屈動作で発症することが多いです。関節(骨)のみが原因の場合、特定の関節のみを駆使することで摩耗することや炎症を起こすことがあります。もしくは椎間板ヘルニアなど腰そのものに異常がみられていることもあります。神経は主にヘルニアなど何かしらの疾患が原因で神経を圧迫することで腰痛が生じます。この場合、腫瘍など腰に直接関係ない場合もあるため腰痛以外にも異常がみられたら早期受診が必要です。

腰痛発症のメカニズム

野球やゴルフなど脊柱の可動域を超えて動かすことがあり、また回旋速度も速く脊柱に負担がかかってしまうことで腰痛を訴えることがあります。フットボールなど相手とのタックルがある競技は手の力が腰部に通うことが困難のため脊柱負荷を高めています。このようにねじる、衝撃を受けることは筋肉や関節(骨)に必要以上の荷重がかかっています。ただ驚くことに活動していなくても腰痛を生じてしまうこともあります。それは長時間の座位です。よくベンチに座っているアスリートたちは試合を見るために前傾姿勢が多く、これは腰椎を最も屈曲させています。とくに高身長であればあるほど前傾姿勢が強いです。この姿勢では椎間板がさらに後方へ膨隆させ負担がかかってしまいます。また長時間ベンチに座ることで腰部の伸展性が失われてしまうことや、特定の筋肉や骨に体の重みがかかります。練習や試合中、腰に衝撃や負担をかけているため、さらに酷使させていることになります。

アプローチ

ここでは活動中、技術や装具を使用することで腰痛予防、悪化防止に役立てる方法を説明していきます。ねじる活動に対して脊柱を保護するためにも装具を着用することや、回旋速度を落とすことで負担が軽減されます。実際にプロゴルファーがバックスイング制限や肋骨弓~骨盤で抑制する腹部装具を着用してスイングを試したところ最大飛距離は減少したものの正確性は保たれていたと報告されています。また特定の筋肉や骨に負荷がかからないように体幹を鍛える準備運動を加えるといいでしょう。「腰痛に対する運動療法-理学療的視点から-」では腰痛に対して最も痛みの緩和効果があるとされるストレッチングと、短期間と長期間ともに機能改善の有効性があるとされているモーターコントロールアプローチを紹介しています。まずストレッチングは痛みの緩和、柔軟性の獲得、代謝および血液循環の改善に効果があるとされています。直接、最初から腰部のストレッチングを行うのではなく腰部を支えている腰背部筋、大殿筋、大腿四頭筋、腸腰筋、ハムストリングス、ヒラメ筋、腓腹筋から行っていきます。これらの部分のストレッチングを行いながら腰痛の有無や度合いをみて段階的に腰部にまで行っていきます。モーターコントロールとは運動するために必要な骨格系、筋系、神経系の機構を相互に調整する能力のことです。「腰痛に対する運動療法-理学療的視点から-」には体幹の深部に着目したインナーユニットというトレーニングを行っています。インナーユニットは横隔膜や骨盤底筋群、腹横筋、多裂筋で構成されており、身体動作の予備動作や脊柱の安定性を図っています。腰痛患者にはインナーユニットによる活動の遅延や低下がみられ腰痛を悪化させています。このインナーユニットに有効と考えられているトレーニングがコアスタビリティ・アプローチです。このアプローチにはさまざまな方法があり、現在では国際サッカー連盟が推奨しているものや、アスリートだけでなく医療現場でも幅広く活用されています。術後や高齢者からできる正しい姿勢での座位保持からアスリートという特定の筋肉や関節を使う部位に合わせた姿勢保持のまま四肢の動的運動などのトレーニング方法があります。

治療

アスリートの腰痛に対して「スポーツ領域の腰痛と治療法の実際」では鍼治療の有効性を記しています。ここでは腰痛症、椎間板ヘルニア、脊椎分離症をもつ腰痛患者に対して筋肉の緊張や痛みの経過をみながら、それぞれ鍼治療での改善を試みていました。その結果、椎間板ヘルニア以外は腰痛緩和がみられており、治療を継続することで悪化防止につながると考えられています。どちらにしても急性腰痛に特に有効で早めの治療を行うことが望ましいとされています。また腰痛の原因が一つではないこと要点とし、競技内容や年齢などアスリート自身に対するものから練習量などの練習内容、グラウンドなど環境や使用する用具から分析しています。分析結果次第では鍼治療の内容を決定しています。

結論

アスリートたちの腰痛は特定の筋肉や関節(骨)を活動させているため腰痛の性質など、腰痛そのものの治療だけではなく、競技内容など個々に合わせたトレーニング方法や腰部に負担がかからないフォームの変更、装具の使用も必要になります。トレーニング方法ではストレッチングやモーターコントロール・アプローチを行うことで柔軟性や安定性が保たれて腰痛緩和や悪化防止につながります。一方で腰痛そのものに対してのアプローチは腰痛の原因がひとつではないことに着目し、常に視野を広く持った状態で考えることでより効果的な治療を行うことができます。また腰痛の有無や性質は日々異なるため、視野を広くもつことで腰痛そのものの治療は変更していくものと考えられます。技術向上や競技中のケガの防止、納得する結果を残すためにも腰痛へのアプローチは一つではなく、多方面から必要であることを常に意識していかなければなりません。

【参考文献】
スポーツ領域の腰痛と治療法の実際 宮本 俊和
日本東洋医学系物理療法学会誌 第 43 巻 2 号 11 会長講演筑波大学 オリンピック・パラリンピック
腰痛に対する運動療法-理学療的視点から- 脊髄外科 VOL.31 No.2相羽宏、舟崎裕記、川井謙太郎 2017年8月
【参考書籍】腰痛-最新のエビデンスに基づく予防とリハビリテーション- Stuart McGill、吉澤英造著 有限会社ナップ 2005年1月
果汁関節をゆるめれば「腰・首・ひざ」の痛みの9割は自分で治せる! 酒井慎太郎著 株式会社永岡書店 2010年9月
腰の痛みにさようなら!専門医が患者の気持ちになって書いた本 小瀬忠男著 日刊工業新聞社 2013年6月

著者情報

腰痛メディア編集部
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