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腰痛に隠された疾患

日本で腰痛に悩まされている方は1,000万人を超えると報告されていますが、その多くは緊急の手術や治療は必要なく、自己管理が可能なものがほとんどです。
しかし、中には絶対に見逃してはいけない重篤な疾患が隠されている場合があり、その兆候を「腰痛のレッドフラッグ(危険信号)」と呼びます。今回は、腰痛のレッドフラッグとそれに隠された重篤な疾患について紹介します。

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腰痛のレッドフラッグ

「腰痛」とは症状の名前であって、疾患名ではありません。
症状として腰痛が現れる疾患は数多くありますが、そのうち85%はレントゲン写真やMRIを撮っても原因がわからない腰痛で「非特異的腰痛」と呼ばれます。
その非特異的腰痛のうち約5%は、見逃してはいけない重篤な疾患が隠されていると言われています。

それでは、どのようなサインが現れたときに、私たちは危険な腰痛を疑う必要があるのでしょうか?
2019年に日本整形外科学会と日本腰痛学会が定めた、腰痛診療ガイドラインでは、以下の9項目が腰痛のレッドフラッグとして挙げられています。

【腰痛のレッドフラッグ(2019年腰痛診療ガイドライン)】
・発症年齢が20歳未満
・時間や活動性に関係のない腰痛
・胸部痛
・がん、ステロイド治療、HIVの感染の既往
・栄養不良
・体重減少
・広範囲に及ぶ神経症状
・構築性脊柱変形(円背など)
・発熱

年齢やこれまでの病歴、全身症状などを加味し、「ちょっと変だぞ」と思う症状があれば、腰痛に隠された重篤な疾患を疑っても良いでしょう。

怖い腰痛

レッドフラッグが現れる、いわゆる「怖い腰痛」の代表的な疾患である脊椎圧迫骨折、腫瘍、感染症、大動脈疾患について紹介します。

脊椎圧迫骨折(骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折)

背骨の骨折である脊椎圧迫骨折は、高齢者における急性腰痛の原因として一番多く、寝たきりの原因や生命予後にも影響を及ぼす骨折として重要視されています。
脊椎圧迫骨折は骨粗鬆症との関わりが深く、閉経後の女性に多い骨粗鬆症患者は、現在日本で1,300万人を超えると言われています。骨粗鬆症性の方は、尻もちをついた時や重い物を持った時など、弱い外力で骨が折れてしまうことがあります。起き上がる瞬間に鋭い痛みが生じ、起きてしまえば痛みは軽減するのが脊椎圧迫骨折の特徴です。

脊椎圧迫骨折の治療は、患部にコルセットを装着して骨が癒合するのを待ち、この間鎮痛薬などの薬物療法やリハビリテーションをおこなうのが原則です。しかし、骨折から8週間以上経過しても腰痛や椎骨の変形が持続している場合は、バルーンを用いた低侵襲性の治療法「Balloon Kyphoplasty; BKP」をおこなうこともあります1)。

👉腰椎圧迫骨折を起こしてから日常生活に戻るまでのリハビリのポイント

腫瘍

脊椎・脊髄に発症する腫瘍である脊椎腫瘍と脊髄腫瘍も、見逃してはいけない怖い腰痛の代表です。

脊椎腫瘍

脊椎腫瘍は大きく二つのタイプに分けられます。
一つは原発性脊椎腫瘍と言われ、背骨そのものから発生する腫瘍で、もう一つは転移性脊椎腫瘍と言われ、背骨以外にできた悪性腫瘍、つまり癌が血液やリンパによって背骨に運ばれ、転移した腫瘍です。

患者数が多いのは転移性脊椎腫瘍で、肺がん、乳がん、前立腺がん、消火器の癌、甲状腺がん、腎臓がんからの転移が多くみられます。癌細胞が脊椎へ転移し、そこで癌細胞が増殖して骨を破壊し、激しい腰痛が現れます。破壊され弱くなった脊椎が負荷を支えられなくなると骨折を生じます。骨折の骨片や膨らんだ腫瘍によって脊髄が圧迫されると麻痺が生じます。治療法は、癌そのものに対する化学療法・ホルモン療法が基本です。

原発性脊椎腫瘍は多くありませんが、種類も悪性から良性のものまでさまざまで、後発年齢はなく、若年者から高齢者まで幅広くみられる腫瘍です。

脊髄腫瘍

脊髄腫瘍とは、脊髄内や神経を保護する膜である硬膜、クモ膜、神経鞘、さらに脊柱管内の軟部組織や椎体に発生した腫瘍により、脊髄や神経根が圧迫される疾患の総称です。激しい腰痛に加え、しびれ、感覚障害、筋力低下などが生じます。治療としては、腫瘍を取り除く手術がおこなわれます。

感染症

腰痛を引き起こす感染症で注意が必要なのは、化膿性脊椎炎と脊椎カリエスです。
これらは、感染した細菌が血流によって脊椎に運ばれることで化膿する疾患です。感染症を起こす原因によって疾患名が付けられており、黄色ブドウ球菌が原因の場合は化膿性脊椎炎、結核菌が原因の場合は脊椎カリエス(結核性脊椎炎)と呼びます。40~50代に多いとされており、糖尿病、悪性腫瘍、肝機能障害、透析患者など、免疫力の低下している人に起こりやすい疾患です。

急性の化膿性脊椎炎は、激しい腰痛や背部痛に加え、高熱がみられます。慢性の場合には、痛みは比較的軽症です。また、脊椎がつぶれたり、脊髄の周囲に膿がたまったりするることで神経が圧迫され、下肢の麻痺が起こる可能性があります。

脊椎カリエスは、微熱、食欲不振、倦怠感などの症状がみられます。化膿性脊椎炎に比べると腰の痛みは少なく、ゆっくりと進行します。しかし、ヒトは結核菌に対する抵抗力が弱いため、広範囲にわたって椎間板や脊椎の損傷が起こる可能性があるので、早期に発見し、治療をすることが大切です。

どちらの疾患も背中をたたくと痛みが増す、叩打痛がみられます。また、通常の急性腰痛症は6~8週間程度様子を見れば痛みはおさまってくるものですが、これらの疾患の場合は6カ月以上腰痛が続きます。

大動脈疾患

大動脈解離や大動脈瘤といった大動脈疾患も腰痛のレッドフラッグが現れる疾患です。

大動脈解離は、心臓から全身に血液を送る大動脈の血管壁が裂けて、その亀裂に血液が入りこむことで大動脈から分岐した動脈の枝の血流が途絶え、脳梗塞、心筋梗塞、消化管虚血がおこり危険な状態となります。この初期症状として突然の腰痛や背部痛、胸痛が現れます。治療としては手術がおこなわれ、解離の原因となった血管の内膜の亀裂を取り除くか、閉鎖する手術法が選択されます。

大動脈瘤の多くは破裂しない限り無症状でが、大きくなると胸部大動脈瘤では胸痛・背部痛、腹部大動脈瘤では腹痛、腰痛、背部痛が現れます。この段階で破裂の危険性が高まっており、破裂すると死亡率が80~90%にも及ぶ非常に怖い疾患です。
治療の原則は、破裂をさせないことです。薬物療法では動脈瘤を小さくすることは不可能なため、予防法として高血圧の場合は血圧を正常にする等が挙げられます。
動脈瘤の大きさが、腹部では5cm以上、胸部では5~6cm以上、末梢血管では3~4cm以上であれば破裂の危険性は少なからずあるため手術が勧められます。破裂する危険性がある場合に、動脈瘤を人工血管にて置き換える手術がおこなわれます。

まとめ

腰痛レッドフラッグと、それに隠されている重篤な疾患について紹介しました。
腰痛がレッドフラッグに該当すると考えられる場合は、放置するのではなく、病院を受診し精密検査を受け重篤な疾患の早期発見に努めましょう!

【参考文献】
1. 西田憲記 他,骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折に対する治療―保存的治療からBKPまで―. 脳神経外科ジャーナル 25,2016.

【参考】
NHK健康チャンネル

著者情報

腰痛メディア編集部
腰痛メディア編集部

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