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「1日中座ってばかりいると、腰に鈍い痛みがある」
「腰が痛くて、日常生活の動作も思うようにうまく動かせない」

今、日本でこのような腰痛持ちのほうが非常に多くいます。

平成28年の厚生労働省の調査によると、「一番困っている症状は何ですか」という質問に対して、「腰痛」と答える人は男性で第1位、女性は肩こりに次いで第2位でした。

頻度として、男性で9.2%, 女性で11.6%となり、約10人の1人は腰痛で悩んでいることがわかりますね。

腰痛は、「肋骨の一番下の骨とお尻の骨の間が1日以上続く痛み」と定義されています。ここからわかる通り、腰痛はあくまで症状のため、病気の名前ではありません。一言で「腰痛」といっても、実際に腰痛を引き起こす疾患は数多くあります。

以前の「腰痛診療ガイドライン」では、欧米の権威ある雑誌に発表された論文を引用し、「原因のわからない腰痛が85%を占める」とされていました。

しかし、近年は日本の整形外科専門医による腰痛の原因を詳しく調査した報告によると、「原因のわからない腰痛」は22%であり、75%以上で診断可能であるとされており、2019年のガイドラインから改訂されています。

一番多いのは、筋肉のつっぱり、炎症によって起きる、筋肉から来る腰痛ですね。重い物を持ったとき、体をひねったとき、ずっと同じ姿勢でいるときなどに起こります。急にくる筋肉由来の腰痛を「ぎっくり腰」と呼びます。

他にも、骨や骨同士をつなぐ椎間板・腎臓やすい臓などの内臓・脊髄の神経にダメージがあると、「腰痛」となって身体のサインが現れます。

数ある原因のうち、「危ない腰痛」の代表的なものに「脊髄腫瘍」があります。脊髄腫瘍は、一言でいえば「背骨の神経にできた腫瘍」のことです。単なる腰痛だからといって放っておくと、腫瘍が成長し神経にダメージを与え、場合によっては他の場所に転移して、最悪お亡くなりになるケースもあります。

そのため、腰痛が脊髄腫瘍の腰痛かどうかのサインを早く見つける必要があります。今回は、「脊髄腫瘍」の腰痛かどうかを自分でチェックできるポイントを4つ厳選しました。

脊髄腫瘍とは?

その前に、脊髄腫瘍についてもう少し詳しく見ていきましょう。

「脊髄腫瘍」の「脊髄」とは、背骨の中を通る神経のことです。神経は薄い「神経鞘」に守られ、さらにそれを「硬膜」と呼ばれる膜で包まれています。それをさらに固い骨で包んで外からの刺激から傷つかないように頑丈に守られています。

そして、「脊髄腫瘍」の「腫瘍」とは、「細胞が異常に増殖して塊(かたまり)になったもの」です。

どんな細胞にも寿命があります。死ぬ前に自分自身を増やして身体を維持しています。これを「細胞分裂」といいます。しかし、たまに細胞分裂するときにミスを起こして「異常な細胞」ができることがあります。これが「腫瘍」です。

そして、どの細胞が「異常」になったかで、腫瘍の種類が異なります。

神経そのものが異常になった場合が「神経膠腫」、薄い神経鞘が異常になった場合が「神経鞘腫」、硬膜が異常になった場合が「髄膜腫」と呼ばれます。この3つが代表的な脊髄腫瘍です。

通常は良性腫瘍といって、その場所で大きくなるだけで、他の場所に細胞が育つこと(これを「転移」といいます)はありません。しかし、非常にまれに他の場所でも増殖する悪性腫瘍になることもあります。

また、肺がん・乳がん・前立腺がん・胃がん・甲状腺がん・腎細胞がんなどの他の腫瘍から脊髄に転移する「転移性腫瘍」の場合もあります。

脊髄腫瘍の症状は?

脊髄腫瘍の症状は、腫瘍の種類に関わらず、神経を圧迫することで起こります。腰の脊髄腫瘍の場合、「足のピリピリするような痛み」「しびれる感覚」「感覚自体が鈍くなる」「筋肉に思ったように力が入らない」といった症状が代表的です。

脊髄に腫瘍ができると、圧迫によって一般的には感覚と運動の機能の両方が同時に損なわれます。先ほどお伝えしたように、脊髄は脳から腰の上端までつながっているので、腫瘍のできた場所によって症状が腕にでる場合、足にでる場合と様々です。重症としては手足が動かなくなる麻痺(まひ)という症状があげられます。

最近はMRIやCT検査などの画像検査が進歩しており、何の病気のサインもないのに偶然検査で見つかるケースもあります。

脊髄腫瘍の治療は?

もし、MRI検査で脊髄腫瘍が見つかったら、治療法としての原則は腫瘍切除という手術になります。手術でその腫瘍組織の一部もしくは全てを取って、さらに詳しい診断のため病理組織を調べます。
病理診断というのは、顕微鏡を使って、腫瘍の組織を詳しくみて、最終診断をすることです。これが治療に大変重要な役割をはたすのです。

腫瘍はそれぞれの性質を持ちます。どんな薬が効きやすいか、放射線が効果的かなどです。病理組織からその腫瘍に効果の高い治療を組み合わせて行われます。

全く症状がない場合や軽度の場合、またはご高齢で進行が遅いと分かれば、手術をせずに様子をみていく場合もあります。腫瘍のできる部位により大きく3つに分けられています。

脊髄そのものにできる髄内腫瘍、脊髄を包む硬膜の中で脊髄の外にできる硬膜内髄外腫瘍、膜の外にできる硬膜外腫瘍です。

この部位による分類のほか、顕微鏡で確認する病理組織学的な違いから、腫瘍の名前やタイプ分けがされています。
硬膜内髄外腫瘍に多いのは、神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)や髄膜腫で、脊髄腫瘍の中では多く、前者で全体の3割、後者で2割を占めるといわれています。ともに基本的には良性の腫瘍ですが、それでも圧迫によって麻痺を起こすこともあります。
硬膜外腫瘍に多いのは転移性といわれていますが、神経そのものや硬膜から発生する腫瘍もあります。

このようなことがないように、腰痛が出す「危ないサイン」に気づくことがとても大切です。

「脊髄腫瘍」の腰痛と他の腰痛と見分ける4つのサインとは?

最新の腰痛診療ガイドラインの中には危ない腰痛を示すサインとして、腰痛の「レッドフラグ」が提唱されています。この中で、特に脊髄腫瘍に特徴的な4つのサインをご紹介します。

18歳以下や50歳以上から発症する腰痛

一番腰痛の原因として多いのは、筋肉由来の腰痛だと述べました。こういった腰痛は、普段の日常生活で腰を多く使う、逆に同じ姿勢を取り続けることで起こります。年齢としては、仕事や家事を積極的にする20代~40代を中心に起こりやすくなります。

一方、18歳以下や50歳以上では、そうした腰を使う機会があまりありません。
加えて、脊髄腫瘍も発症しやすい年齢でもあります。

この年代に該当する人で、以下に挙げる症状がある場合は、特に気を付ける必要があります。

体重減少や全身のだるさ、発熱などの全身症状がある

筋肉から来る腰痛の場合は、腰の筋肉が炎症しているだけなので、全身の症状が来ることはあまりありません。

もちろん腰痛が強い場合、日常生活が制限されて「重だるい感じ」になることもあります。しかし、食事制限もしていないのに体重が減ったり、発熱をきたしたりする頻度は低いといえます。

一方、脊髄腫瘍による腰痛場合、腫瘍を外から追い出そうと免疫が働くので、戦うサインとして「発熱」「全身のだるさ」が出ることがあります。また、腫瘍から栄養が取られるので体重が減ってくることもあります。

こうした全身のサインが出てきている場合は、特に要注意で、早めに病院やクリニックに受診したほうが良いでしょう。

我慢できないような夜の痛みや6週間くらい続く

「ぎっくり腰」に代表される急性の腰痛の場合、長期間続くことはありません。鎮痛剤を飲みながら、リハビリすることで徐々に良くなっていきます。また、動かさないといけない日中に悪くなり、運動しなくてもよい夜には治まりやすい傾向があります。

一方、脊髄腫瘍は取り除かないとなくならないので、腰痛の時間は昼夜を問わず起こります。逆に、腫瘍が時間とともに増大するので、痛みが激しくなっていくのが特徴です。安静にしているのに時間とともに痛みが強くなったり、神経症状が出るようなら、脊髄腫瘍の腰痛かもしれません。

ガンにかかったことがある

脊髄腫瘍は原発性の良性腫瘍の他にも「転移性腫瘍」の場合も多くあります。女性では乳がん(57~73%)、男性では前立腺がん(57~84%)に骨転移が多いといわれています。他にも肺がん(19~32%)、甲状腺がん(19~50%)、腎がん(23~45%)が代表的です。

こうしたガンを治療したことがある人は、後で脊髄に「転移」することで発症することがあるので、一般の人よりも特に注意する必要があるでしょう。

脊髄腫瘍かもと思ったら(診断、検査)

腰痛以外の症状に少しでも心当たりがありましたら、整形外科を受診してください。
大変ご不安になってしまった方のためにも、ここで頻度についてお話させていただきますが、脳腫瘍よりもまれな、一年間に10万人のうち、2人ほどの方が診断されると報告ではいわれています。年齢は様々で、子供を含めた若い方から年配の方まで含まれています。

診察のときに、ハンマーのような診察器具でトントンされたことはありませんか?深部腱反射といって神経系の反応を確認すると反り返るように反射が強くでるという所見がみられる方もおられます。ただ、さきほどお伝えした通りで、腫瘍のできる場所によってはこれがみられないこともありますね。

診断の方法ですが、画像検査とりわけMRI検査が大変有用です。MRIの中でも造影剤という薬を使った検査が、さらに腫瘍のタイプや広がりを確認するために行われることが一般的です。

受診せずに放っておくとどうなる?

腫瘍細胞は、正常細胞よりも増加スピードが速いものが多いので、放置すると腫瘍が増大し症状も悪化していきます。脊髄圧迫症状により両足の筋力低下がおこると転びやすくなったり、手の力が入りにくくなったりします。

転んだり物を落としたりして怪我をする機会が増えることが考えられます。放置せずに、おかしいと感じる場合はすぐに受診しましょう。

まとめ

脊髄腫瘍による腰痛を見分けるポイントを4つに厳選して紹介しました。

最近は画像も進歩しており、初期の腫瘍も高い精度で見つかるようになってきました。

4つのポイントに当てはまるほうや、少しでも「おかしいな」と思ったら、CTやMRIなど詳しい画像検査してもらえる病院に、早めに受診するようにしましょう。

【参考文献】
1、 日本脊椎脊髄病学会HP

2、 腰椎診療ガイドライン2019年 改訂第2版

3、 日本脳神経外科 脳神経外科疾患情報ページ

4、 Winters, M.E, et al.: Back pain emergencies. Med Clin North Am, 90: 505-523, 2006

5、 Hipp, A & Sinert, R : Clinical assessment of low back pain. Ann Emerg Med, 47: 283-285, 2006

著者情報

腰痛メディア編集部
腰痛メディア編集部

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