婦人科疾患が原因で腰痛を引き起こすことは周知のとおりです。では、具体的にはどのような病名が思い浮かぶでしょうか?子宮内膜症・子宮筋腫・子宮体がん・月経困難症などが、まずパッと思いつく病名だと思います。

これらの病気に共通していることは、そう「子宮に原因がある」ということですね。ご存知のとおり、子宮は受精卵を着床させて胎児を育てる「ベッドの役割」を果たす臓器です。女性の下腹部、骨盤のちょうど真ん中に位置しているため、子宮に異常が起こると、「下腹部痛」や「腰痛」の原因になるのです。子宮筋腫や内膜症は頻度の高い疾患でもあるので、「婦人科疾患の腰痛」と聞くと、まずこれらが連想されるのですね。

しかし、婦人科疾患において腰痛を引き起こす原因は子宮だけではありません。重要だけでも見落としがちな疾患が、ほかにも隠れているのです。この記事では、子宮以外が原因で腰痛を引き起こす婦人科疾患を3つのポイントから解説しています。いずれの原因も、卵子の生成・成熟・排卵を担う「あの臓器」と深く関連する疾患ですよ。

「普段から慢性的な腰痛にお悩みの方」や「整形外科では特に異常なしと言われた方」は、もしかしたら本記事の内容が診断の糸口になるかもしれません。腰痛の原因が分かれば対処も可能です。ぜひ参考にしてください。

卵巣に起こる病気の特徴

「卵子と関連する組織」という回りくどい言い方をしましたが、今回のテーマになる臓器は「卵巣」です。子宮とともに女性器に分類される卵巣も、もちろん婦人科が扱う臓器になります。

卵巣は子宮の両側に1つずつ存在する、数センチ大の女性器です。その働きは大きく二つあり、「卵子を作り、育てて、排卵する」機能と、「女性ホルモンを分泌する」機能です。

卵巣の病気は自覚症状がないことも多く、病気が進行して初めて、腰痛などの症状を呈することも少なくありません。そのため、診断が遅れるケースも多々あるので、注意が必要なのです。

ここでは、卵巣に関連した腰痛疾患を3つのポイントからお伝えしたいと思います。

卵巣の腫瘍

卵巣には多様な種類の腫瘍が発生することが知られています。ときには「卵巣がん」と呼ばれる悪性腫瘍が発生することもありますが、頻度としては良性腫瘍の方が多く、その代表的なものが「卵巣のう腫」です。

卵巣のう腫の初期症状はほとんどなく、腫瘍が増大してから異変を感じる女性が多い特徴があります。大きくなった腫瘍が周りの臓器や血管、神経などを圧迫することで痛みを生じるのです。部位は腰だけでなく、下腹部痛を伴うことも多々見受けられます。

また、腫瘍が極度に大きくなると、下腹部を中心にぽっこりとお腹が出ることがあります。お腹が前に突出すると身体の重心も前方へ移動するため、バランスを取ろうと腰への負担が強まります。この身体の変化も腰痛の原因になるのです。

また、卵巣のう腫による痛みは、通常徐々に強くなるものですが、「卵巣茎捻転」を併発すると急激な痛みを感じます。

卵巣茎捻転は、腫瘍によって重みを増した卵巣が捻れてしまう病気です。急激な腹痛、腰痛のほか、嘔吐などを伴うことがあります。特に痩せた女性に起こりやすい特徴もあります。もともと卵巣のう腫と診断されている方で、激烈な痛みを感じた場合は卵巣茎捻転のおそれがあるため、専門機関の受診をおすすめします。緊急での手術が必要な場合があるからです。

また、頻度は少ないですが、悪性の卵巣がんが進行すると「腹水」がお腹の中に貯まることがあります。この腹水が原因でお腹が突き出ることもあり、腫大した卵巣のう腫の場合と同様に、腰痛を引き起こします。

卵巣の炎症

意外かもしれませんが、卵巣でも炎症が起こることがあります。

「炎症」と聞くと、とても痛そうなイメージを抱くかもしれませんが、実際は正反対です。卵巣の炎症疾患の場合、程度が軽ければ、ほとんど自覚症状を感じないケースも多く、普段よりもオリモノが少し増える程度のこともよくあります。

しかし、炎症が進行してくると、腰痛・下腹部痛・発熱・性交時の痛みなどを呈します。加えて、卵巣炎は卵管炎を併発することがほとんどで、放置すると「不妊症」の原因にもなりかねません。「ただの腰痛」と舐めていると、痛い目に遭いますので注意が必要です。

卵巣炎の原因としては、タンポンの長期使用や性交渉が原因になることが多くあります。最近では若い方にも多く発症する傾向にあるので、心当たりの腰痛持ちさんは婦人科の受診をおすすめします。

卵巣が原因で骨折を起こす?!

卵巣腫瘍と卵巣炎は、いずれも卵巣で発生した病気が原因で腰痛を引き起こしていましたが、実は、卵巣が原因で骨の異常を引き起こすこともあるのです。

この記事冒頭で、卵巣の働きを説明したことを覚えているでしょうか?卵巣は卵子の形成に関わるだけでなく、「女性ホルモンの分泌」も担っていたと思います。そして、この女性ホルモンと骨に深い関わりがあるのです。

ふだん意識することはありませんが、骨も肌と同じように代謝を繰り返しています。つまり、古くなった骨は壊され、新しい骨につくりかえられることで、頑丈な骨が形成されています。この、破壊と再生のバランスが肝なのです。

しかし、加齢などが原因によって女性ホルモン(特にエストロゲンと呼ばれるホルモン)が減ると、骨を壊す働きばかりが盛んになり、骨の再生が追いつかない事態になります。こうなると、骨がスカスカ状態になり「骨粗鬆症」を引き起こす原因になります。背骨で骨粗鬆症が起これば、当然、背骨の骨折リスクも上がります。すなわち、女性ホルモンの減少が圧迫骨折による腰痛を引き起こすこともあるのです。

女性ホルモンの減少は様々な要因で起こります。加齢による閉経が最もメジャーですが、近年では「やせ過ぎ」が問題視されています。

女性ホルモンの分泌は、卵巣だけでなく「脂肪組織」も大きな関わりがあります。そのため、過度な痩せも女性ホルモンの分泌量を減らし、骨粗鬆症を引き起こす要因になるのです。骨粗鬆症は高齢者に起こりやすいイメージがあると思いますが、若年層も例外ではないのです。

閉経を迎えた女性や、BMIが極端に低い方には、骨粗鬆症による圧迫骨折のリスクがあります。腰が痛い場合は、専門機関を受診した方がよいかもれしません。

まとめ:婦人科領域の腰痛は卵巣も原因の一つ!

「婦人科領域の腰痛と言えば子宮」と思いがちですが、実は卵巣が原因になることも多いことが理解できたと思います。

今回の記事では、「卵巣腫瘍」「卵巣炎」「女性ホルモン」の3つのポイントと腰痛の関連についてお伝えしました。いずれの疾患も頻度としてはけっして少ないものではなく、読者の皆さんとも関わる可能性が十分高い病気なのです。「卵巣も腰痛の原因になる」ということは、ぜひ覚えていてください。

また、腰痛の原因が卵巣にある場合、痛みが辛いだけでなく、将来的には不妊の原因にもなりかねません。デリケートな問題ですが、「卵巣の病気かも?!」と思ったら、一人で抱え込まずに、パートナーや専門の医師に相談することをおすすめします。

【参考文献】
本庄 英雄(1991)「JIM 1巻 7号 婦人科疾患による腰痛  」医学書院

著者情報

広下若葉
広下若葉

保持資格

医師国家資格・麻酔科標榜医

経歴

2015年:医師国家資格 取得

2017年:初期臨床研修プログラム 修了

2020年:麻酔科標榜医 取得

    麻酔科専門研修プログラム 修了

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