腰痛は、その経過から「急性腰痛」と「慢性腰痛」に大別されます。

慢性腰痛の場合、人生の長い期間を痛みとともに生活することも多く、患者さんの中には自分に合った対処法や姿勢などを熟知している方も大勢います。

一方、急性腰痛は、突然の腰の痛みに襲われる疾患であり、患者さん自身が痛みへの適切な対処法を知らないケースがほとんどなのです。そのため、てきとうな湿布薬や市販薬を使って、痛みを誤魔化すだけの治療をしている患者さんも多く見かけます。その治療法は果たして「医学的に正しい」と言える方法なのでしょうか?

以前の記事では(→急性腰痛の薬は何を飲む?ガイドラインに準拠した正しい薬物治療 リンク)、ガイドラインに準拠した「急性腰痛の正しい薬物治療」についてお伝えしました。薬物治療の中心は、「NSAIDs」や「アセトアミノフェン」という種類の薬剤で、ガイドラインにおいても第一選択の薬として推奨されていましたね。適切な薬剤を適切な用量で使用すれば、急性腰痛の痛みは十分にコントロールできることが理解いただけたと思います。

一方、薬物治療も万能ではなく、特に注意しなければいけないのが「薬の副作用」でした。患者さんの中には、鎮痛薬で痛みが緩和されているにもかかわらず、副作用のために中止を余儀なくされる方もいます。また、薬物治療にも限界はあり、薬の力だけでは痛みを抑えきれないケースもあるのです。薬の次の一手としては、どのような除痛の手段があるのでしょうか?

今回の記事では、急性腰痛に対する治療のうち、薬物以外の治療法について解説したいと思います。具体的には、「ブロック治療」と「装具治療」の2種類の治療です。いずれもガイドラインに準拠した、スタンダードな急性腰痛の治療法になりますので、どうぞご参考ください。

本記事をご一読くだされば、薬だけに頼らない急性腰痛の治し方が分かります。現在進行形で急性腰痛にお悩みの方、年齢的に急性腰痛が心配な方は、ぜひお付き合い下さい。

急性腰痛のブロック治療

「ブロック治療」とは、腰痛の原因となる神経周辺に局所麻酔薬を注射することで、神経の活動を抑制して鎮痛を図る治療法です。薬物治療の場合は、薬の効果が全身に及んでしまいますが、ブロック治療は疼痛部位にピンポイントに効くメリットがあります。また、ブロック治療の多くは、日帰りで実施できる点も魅力的です。

急性腰痛には数種類のブロック治療が施行されますが、どの治療が最も優れているかは確立しておらず、効果に差はないとされています。どのブロック治療が選択されるかは、腰痛の原因や痛みの程度、または実施者の経験などによって決まることが多いのです。

また、 いずれのブロック治療においても、穿刺部位からの出血、局所麻酔中毒、薬剤アレルギーが副作用として起こりえますので注意が必要です。

トリガーポイントブロック

トリガーポイントブロックとは、痛みの原因部位に直接針を刺して、局所麻酔薬を注入することで急性腰痛を緩和する治療法のことです。急性腰痛の場合、脊柱起立筋(腰の筋肉)が原因部位のことが多く、ここをターゲットにして針を刺します。他のブロック治療が神経の周囲に針を刺すのに対し、トリガーポイントブロックは筋肉自体に針を刺すため、神経損傷などは起こりにくいメリットがあります。比較的安全性の高い治療法とも言えるでしょう。

硬膜外ブロック

脊髄の外側には「硬膜外腔」と呼ばれるスペースがあり、ここに針を刺して局所麻酔薬を注入する治療法になります。注入された局所麻酔薬が、脊髄から出た神経をブロックすることで、高い鎮痛効果が期待できます。局所麻酔薬だけでなく、ステロイドも用いられることもあります。

脊髄の近くまで針の先端を進めるため、神経を損傷するリスクをはらむ点がデメリットになります。また、針を刺した部位から感染を起こすと「硬膜外膿瘍」という「膿の塊」を形成することがあり、長期の抗生剤治療や、場合によっては手術が必要になることもあります。

硬膜外ブロックにもいくつかの種類があり、急性腰痛に対しては、主に「仙骨硬膜外ブロック」や「腰椎硬膜外ブロック」が施行されます。いずれも針の穿刺部位が違うだけで、共通点も多い治療法になります。

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椎間関節ブロック

「椎間関節」とは、椎骨(背骨のこと)と椎骨が連結して形成される関節部分のことです。レントゲンを使いながら、この椎間関節に局所麻酔薬を注入する治療が「椎間関節ブロック」になります。腰椎を伸ばした時に腰痛が強くなる場合は、椎間関節が原因で腰痛を引き起こしていることが多いため、椎間関節ブロックの適応になりえます。

余談ですが、腰を伸展させる、すなわち「反り腰」姿勢を取りがちな方は、日頃から椎間関節に負担をかけている可能性があります。猫背を矯正しようと極端に胸を張る姿勢が逆効果と言われるのは、これが理由になります。

急性腰痛の装具療法

装具とは、いわゆる「コルセット」のことです。腰痛持ちの方であれば、コルセット装着の経験もあるかと思います。ただ、急性腰痛に対するコルセット装着の効果には、はっきりとした有効性は証明されておりません。しかし、日常診療として広く実施されている点には疑いの余地はなく、コルセットの効果を実感したことのある方も多いかと思います。

コルセットの最大の目的は「脊椎の安定化」です。コルセットで腰部の可動性を制限することで、腰が動くことで誘発させる痛みを防ぐことができます。

また、キツめにコルセットを締めることで腹圧(お腹にかかる圧力)の上昇効果も期待できます。経験上ですが、圧迫を加えることで疼痛自体が緩和されることが分かっています。腹圧が上がれば、お腹が腰を圧迫してくれるので、腰痛が軽減されるというわけです。

加えて、副次的な効果ですが、精神衛生的なプラス効果も見込めます。つまり、コルセットを装着しているという安心感が、急性腰痛への不安を抑制してくれるのです。ただ、依存度が高くなりすぎてしまうと、「コルセットなしだと不安でどうしようもない」という心理状態に陥ることもあるので注意が必要です。

よくある勘違いとしては、「コルセットは締めれば締めるほど良い」というものがあります。過度な圧迫は、かえって痛みや不快感を増強させたり、息苦しさへつながります。また高齢者の場合は、コルセットに肋骨がつかえることも多いため、より注意が必要です。

まとめ;急性腰痛にはブロック治療とコルセットを薬物治療と併用しよう

今回の記事では、急性腰痛に対する治療法として「ブロック治療」と「装具治療」についてお伝えしました。

ブロック治療には様々な種類があり、どれが最も優れているかは優劣がついていません。しかしながら、いずれのブロック治療にも有効性が示されており、痛みをピンポイントで取り除いてくれるので、急性腰痛患者の心強い味方と言えるでしょう。針や局所麻酔薬を用いるため特有の注意点はありますが、有効に活用すれば強い鎮痛効果を発揮してくれます。

一方、装具療法は明確な有効性こそ証明されていませんが、手軽さや経験的な効果から幅広く実施されている治療法です。薬物治療やブロック治療と組み合わせやすいこともメリットと言えるでしょう。

急性腰痛に薬物療法が有効的なのは、紛れもない事実です。しかし、最大の懸念事項は薬による副作用になります。薬物治療とブロック治療、装具治療を上手く組み合わせることで、それぞれのデメリットを打ち消して、さらなる鎮痛効果が期待できるのです。ブロック治療は、お近くの整形外科やペインクリニックで受けることができるので、治療の選択肢の一つとして検討してみてください。

【参考文献】
Chou R, Qaseem A, Snow V, et al(2007)Diagnosis and treatment of low back pain:a joint clinical practice guideline from the American College of Physicians and the American Pain Society. Ann Intern Med 147:478-491

菊地臣一(監訳)(2002)
「急性腰痛管理―英国クリニカルガイドライン」
エフネットワーク

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著者情報

広下若葉
広下若葉

保持資格

医師国家資格・麻酔科標榜医

経歴

2015年:医師国家資格 取得

2017年:初期臨床研修プログラム 修了

2020年:麻酔科標榜医 取得

    麻酔科専門研修プログラム 修了

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