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ぎっくり腰をはじめとする「急性腰痛」は、腰痛のなかでも発症頻度が高い疾患です。読者のみなさんのなかには「この痛みを何とかしたい!」という必死の思いから、この記事にたどり着いた方も少なくないと思います。

布団の上で安静に過ごしたり、市販の鎮痛薬を飲んだり、湿布薬を貼ったりと、みなさんは思い思いの治療をされていることと思いますが、果たしてその治療は「本当に正しい」治療法なのでしょうか?

今は、スマホ一つあれば簡単に腰痛の治療を検索できる時代になりました。しかし残念なことに、ネット情報のなかには「医学的に正しくない」治療法が明記されていることも少なくありません。その治療法を実践したあまり、かえって急性腰痛も悪化させてしまう可能性もあるのです。

この記事では、ガイドラインに則った「医学的に正しい」急性腰痛の治療について解説しています。腰の痛みにお悩みの方も、本記事をご参考いただければ、痛みを緩和する糸口が見つかるかもしれません。自分の腰を守るのは自分自身です。正しい知識を身に付けて、腰痛に悩まされない生活を過ごしてみませんか?

急性腰痛の概要【基礎知識をおさらい】

現代日本において、腰痛疾患はもはや「国民病」といわれるくらいメジャーな病気になりました。厚生労働省の「国民生活基礎調査」において、腰痛は肩こりや関節痛を抑えて堂々の1位を記録していますし、日本人の約7割以上が生涯に1度は腰痛を患うといわれるほどです。

そのなかでも、「急性腰痛」は頻度の高い腰痛です。読んで字の如く「急激に起きた腰痛」のことで、慢性的に腰が痛む「慢性腰痛」と、よく対比される言葉だと思います。急激に起こる腰痛の原因には様々な疾患があり、椎間板ヘルニアや腰椎圧迫骨折などが原因で腰痛を引き起こすこともあります。

しかし急性腰痛においては、このように明確な原因を特定でき、正確な診断名がつくことの方が稀です。「椎間板ヘルニア」「脊椎腫瘍」などのような診断名がついた腰痛のことを「特異的腰痛」と呼びますが、全腰痛の僅か15%にすぎません。

一方、明らかな腰痛の原因を特定できないものを「非特異的腰痛」と総称しますが、急性腰痛を主訴に病院を受診する患者の約85%が、この「非特異的腰痛」に分類されるのです。原因が特定されないと不安になる気持ちも分かりますが、「非特異的急性腰痛」の約90%は、6 週間以内に軽快するとされるため、過度な心配はしないでください。

しかしながら、時間とともに軽快するとはいえ、腰の痛みには辛いものがあると思います。次からは、「ガイドラインに準拠した、医学的に正しい急性腰痛の薬物治療」について解説しています。腰の痛みにお悩みの方は、是非ご参考ください。

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)

NSAIDsは聞き慣れないワードかもしれませんが、「ロキソプロフェン」「イブプロフェン」「アスピリン」などの鎮痛成分は聞いたことがあると思います。すべてNSAIDsに代表される薬剤です。

NSAIDsは、腰痛に対して最もおすすめされている薬剤で、米国ガイドラインでは「第 1 選択薬」に位置づけられています。先ほど3種類のNSAIDsの薬剤が出てきましたが、NSAIDsには他にもたくさんの種類が存在します。しかし、どの薬剤が最も良いかは一定の見解は得られておらず、ほぼ同等と考えられています。

市販薬の種類も多く、比較的気軽に内服できる薬剤ですが、副作用もしっかりあるので注意が必要です。副作用のなかでは、胃腸障害(胃痛、胃潰瘍など)が最も多く、発生頻度は10%前後とされています。次点は腎障害で、特に高齢の方の場合は頻度が高い特徴があります。その他、肝機能や喘息を悪化させる場合もあります。

NSAIDsは容易に入手できる上に、鎮痛効果も優れているので気軽に内服しがちですが、このように多くの副作用をもっているのです。そのため、米国ガイドラインでも「効果を見込める最少量を最短期間で」使用するよう述べられています。

アセトアミノフェン

米国ガイドラインにおいては、NSAIDs とともに「第1 選択」に位置している薬剤です。市販の風邪薬にも、解熱効果を期待して配合されていることが多い成分です。NSAIDsと比べると鎮痛効果は劣りますが、副作用が少なく値段も安いメリットがあります。ただ、全く副作用がないわけではなく、肝機能を悪化させることがあるので注意してください。

高齢の方の場合、NSAIDsでは様々な副作用が懸念されます。そのため、アセトアミノフェンで腰痛が改善されるなら、アセトアミノフェン単独での疼痛コントロールで問題ないと思われます。

筋弛緩薬

筋弛緩薬とは、筋肉の緊張状態を緩和させる薬のことです。急性腰痛の場合、筋肉の緊張が腰痛を引き起こすことも多く、腰部や骨盤の筋肉を弛緩させることで、痛みを和らげる効果が期待できます。

英国ガイドラインでは、NSAIDsとアセトアミノフェンで鎮痛効果が不十分な場合には、1週間程度使用しても良いとされます。ドラッグストアなどで購入可能な筋弛緩薬もあり、「筋肉のコリをほぐす!」などをうたい文句にして販売されていると思います。

副作用として頻度が高い症状には、めまい、眠気、吐き気などが挙げられます。副作用が出現した状態での作業(特に運転など集中力を要するもの)は危険なので、避けるようにしてください。

オピオイド

オピオイドとは「医療用麻薬」のことです。海外のガイドラインでは、NSAIDsやアセトアミノフェンの効果が乏しい場合に使用されることもあるようですが、日本ではあまり使われません。

強い鎮痛効果が期待できますが、そのぶん危険な副作用も有します。便意、吐き気、眠気に加え、誤った使用法では依存や離脱症状などに苦しむこともあります。また、市販薬として購入できる薬品はないため、医師に処方してもらう必要があります。医療用とはいっても麻薬に分類されるため、入手難易度は高いのです。

まとめ:急性腰痛は薬での鎮痛が効果的。上手に薬を使い分けよう

今回の記事では、ガイドラインに準拠した急性腰痛の薬物治療についてお伝えしました。

NSAIDsは優れた鎮痛効果をもち、比較的簡単に入手できる薬剤のため、急性腰痛で最も重宝される薬といえるでしょう。しかし、その効果の反面、副作用にも注意が必要です。特に胃腸障害と腎障害の頻度が高いため、「最小限の用量を最短期間で」使うことを心がけましょう。

また、急性腰痛に効果的な薬はNSAIDsだけではありません。アセトアミノフェンや筋弛緩薬にも効果が認められているので、これらを上手に使い分けることでNSAIDsへの依存度も下げられると思います。

残念ながら副作用のない薬剤は存在しませんが、上手に薬の種類を使い分けたり、用量を調整することで、高い鎮痛効果が期待できます。急性腰痛を患った際、どの薬を飲もうか迷ったときは本記事のことを思い出してください。みなさんの急性腰痛のお役に立てれば幸いです。

【参考文献】
Chou R, Qaseem A, Snow V, et al(2007)Diagnosis and treatment of low back pain:a joint clinical practice guideline from the American College of Physicians and the American Pain Society. Ann Intern Med 147:478-491,

菊地臣一(監訳)(2002)「急性腰痛管理―英国クリニカルガイドライン」
エフネットワーク,

著者情報

広下若葉
広下若葉

保持資格

医師国家資格・麻酔科標榜医

経歴

2015年:医師国家資格 取得

2017年:初期臨床研修プログラム 修了

2020年:麻酔科標榜医 取得

    麻酔科専門研修プログラム 修了

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