腰痛の原因となる疾患に脊髄腫瘍があります。脊髄腫瘍は脊髄内に発生したがんで、進行すると神経を圧迫し、腰痛を始めさまざまな症状が出現します。根本的な治療は手術が必要になるのですが、最近ではナノ粒子を用いた抗癌剤治療の研究も報告されています。今回は腰痛をきたす疾患である脊髄腫瘍に関しての基本的知識と、ナノ粒子を用いた最新治療についての論文をご紹介します。

腰痛をきたす脊髄腫瘍とは

私たちの背中には脊髄という神経の束が脳から腰まであり、その外側を順にクモ膜、硬膜、脊柱管、椎体などが覆っています。脊髄腫瘍とは、このような組織に腫瘍ができて脊髄が圧迫される疾患群のことです。10万人に1人から2人、脳腫瘍の約5分の1から10分の1の割合で発生する比較的稀な病気です。

脊柱管の内側には硬膜があり、髄液を内側にためることで脳や脊髄の保護作用を果たしています。この硬膜の外側にできた腫瘍を硬膜外腫瘍、硬膜の内側にできた腫瘍を硬膜内腫瘍と呼びます。硬膜外腫瘍には転移性のものと原発性のものがありますが、ほとんどが転移性です。

また硬膜内腫瘍の中でも脊髄の外側にあるものは髄外腫瘍と呼ばれ、脊髄の内側にある腫瘍は髄内腫瘍と呼ばれます。髄外腫瘍は最も一般的な硬膜内腫瘍で、ほとんどの場合は良性です。一方、硬膜内腫瘍はまれではありますが、治療が困難なことが多いです。

頻度の多い腫瘍としては、脊髄を取り囲む硬膜から発生する髄膜腫、神経を保護する膜から発生する神経鞘腫、脊髄そのものから発生する神経膠腫の3つで、ほとんどが良性です。他にも、がんなどの悪性腫瘍、上皮腫、血管腫など多くの種類があります。これらの病気の原因はわかっていませんが、ほとんど親から子へ遺伝するものではありません。

脊髄腫瘍の症状、診断、治療

脊髄腫瘍の大部分を占める良性腫瘍の場合、腰痛などの症状は数カ月から数年かけて進行しますが、悪性腫瘍の場合は症状の進行が早くなります。症状は、腫瘍によって脊髄が圧迫されることによって引き起こされます。

具体的な症状としては腰痛、しびれ、感覚障害、筋力低下があります。腫瘍が大きくなり、脊髄への圧迫が強くなると、安静時にも腰痛を生じるようになったり四肢の麻痺が起こったりすることがあり、さらに進行した場合には、患者さんが尿を通すことが困難になったり、尿漏れを起こしたりすることもあります。このような麻痺は、骨髄炎や多発性硬化症などの神経疾患でも起こることがあるので、区別することが重要です。

脊髄腫瘍はレントゲンでの診断が難しいため、MRIが用いられます。ほとんどの脊髄腫瘍はMRIで診断できますが、スキャン中に造影剤を使用することでより詳しく検査でき、腫瘍の種類と範囲を決定できます。

手術の計画を立てるためにCTスキャンを追加することもよくあります。また血管造影検査も、腫瘍に血管が多い場合や、腫瘍や病気が血管性のものであるかどうかの診断が困難な場合に行われます。

治療の方針としては、腫瘍の大きさをできるだけ小さくし、腰痛などの症状を改善し症状が出ないようにすることです。手術をすることで脊髄の圧迫を緩和し、日常生活の質を維持できます。

様々な観点から患者さんの治療法を検討し、腫瘍の外科的摘出が最善と判断された場合に手術が行われます。その際同時に、骨も破壊されている場合には、脊椎の再建を行うこともあります。

手術は顕微鏡を用いた摘出が行われますが、脊髄には、手足を動かす神経や感覚を司る神経など、重要な神経線維が密集しているため、これらの神経を傷つけないように細心の注意を払わなければなりません。特に髄内腫瘍は、腫瘍と脊髄の境界が不明確なこともあり、多くの合併症のリスクがあります。

手術による主な合併症
・脊髄・神経根の損傷
・髄液漏
・脊椎の変形
・術中・術後の出血
・感染症

また手術で取りきれなかった腫瘍に対して、放射線治療や抗癌剤の治療も行われます。特に悪性のものでは、このような補助療法が必要とされますが、症例数も少なくデータが不足しているのも現状です。

そのため悪性腫瘍は予後が非常に悪いのが現在の課題です。青年や小児に多い脊髄髄内腫瘍の一つである、星細胞腫は7〜30%が悪性で、平均生存期間はわずか15.5カ月というデータもあるようです。1)

ナノ粒子を用いた脊髄腫瘍の最新治療研究

ここで脊髄腫瘍に対する新しい治療方法として研究されている、ナノ粒子をもちいた化学療法についてご紹介します。現在、ほとんどの髄内腫瘍の治療は外科的な生検や切除が積極的に行われています。

しかしながら、一部の髄内腫瘍の手術では脊髄と腫瘍境界が不明瞭で、神経を傷付けずに剥離するのが困難です。したがって、全摘出できない腫瘍も多く、その場合には放射線療法や化学療法も追加で用いられます。

放射線療法は特に小児において、放射線壊死、脊髄症、発達奇形、成長障害、血管障害、正常細胞の変化などの副作用が多く報告されています。放射線療法の30年後に二次腫瘍を発症するリスクが最大25%に達するという報告もあり、被爆による影響も疑われているようです。

また化学療法にも、血液脳関門によって浸透性しにくく、がん細胞だけではなく正常細胞にも影響するため、全身毒性が強いという欠点があります。私たちの脳や脊髄の周りは血液脳関門という組織液が満たされており、これによって血液と物質交換できます。血液脳関門のおかげで、中枢神経は有害物質からバリアすることができるのですが、腫瘍への化学療法ではこれがネックになってしまうということです。

そのため、従来の治療に代わる方法として、磁場によって誘導されるナノ粒子を用いた新規治療が研究されています。2) この治療の概要を説明すると、磁力の力で腫瘍に局所的に化学療法薬を伝達することができ、薬による副作用や全身毒性をより少なくしようというものです。

まず化学療法薬のドキソルビシンを金属粒子と結合させることで、磁性ナノ粒子を作成します。これを標的の部位へ磁力によって運び、薬の効果を限局的に伝えることができます。

イリノイ大学の研究チームは、人間の髄内脊髄腫瘍を移植したマウスを用いて背中の皮膚に磁石を埋め込みました。そして、腫瘍近くの脊髄内に磁性ナノ粒子を注入したところ、ナノ粒子は磁石に引き寄せられて、患部に誘導されていきました。

実験の結果としては、化学療法薬ががん細胞の局所的に存在することが証明でき、治療方法として期待できるということが証明されています。2) また、腫瘍の細胞はドキソルビシンによって死滅し、かつ健康な脊髄細胞への影響もありませんでした。もっとも今回の研究では1匹のマウスでしか、この治療を試すことができていなく、より進んだ研究ではこれ以上のサンプル数が必要になりそうです。

より多くの症例での実験を重ねることで、腫瘍の増殖速度の低下や神経学的腫瘍の増殖速度の低下、神経学的障害の発症の予防、および生存期間の改善に対する治療の効果を評価することが現在の課題とされています。

しかしながらこの実験で、腫瘍部位に限定的に化学療法薬の濃度を高めることができ、全摘しきれなかった脊髄腫瘍の治療の有効性と安全性を向上させる可能性があるという証明ができたことはとても大きい成果です。これまで治療が困難とされていた、脊髄髄内腫瘍への新たな治療として大いに期待できそうですね。

まとめ:腰痛の原因となる脊髄腫瘍の治療は専門的な医療機関へ

今回は腰痛を来す疾患である脊髄腫瘍について解説しました。脊髄腫瘍は専門的な医療機関で治療をしなければ、腰痛症状は改善しません。早期発見早期治療が大切ですので、なるべく早く医療機関を受診するようにしましょう。この記事が腰痛でお悩みの方に少しでも役立てれば幸いです。

1) Sci Rep. 2018; 8: 11417.Published online 2018 Jul 30. doi: 10.1038/s41598-018-29736-5
Magnetic Drug Targeting: A Novel Treatment for Intramedullary Spinal Cord Tumors
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6065319/

2) TELESCOPE Magazine 磁性ナノ粒子を使ったドラッグデリバリーシステムで、脊髄腫瘍を治療
https://www.tel.co.jp/museum/magazine/news/277.html

著者情報

腰痛メディア編集部
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