はじめに

 椎間板ヘルニアの場合の主症状としては多くの場合が腰痛であり、ほとんどの人がその腰痛を理由に受診し検査したところ発見されるというケースが大半です。しかし中にはまれなケースもあり、特に高齢者ではその症状の出現の仕方が教科書通りでないことがほとんどです。私も大学で研修をしていた頃に初めて出会いました。それらを元に紹介したいと思います。

高齢者における椎間板ヘルニアの症状

 前述したように椎間板ヘルニアでは腰痛が主症状として出現します。私も椎間板ヘルニアを抱えておりますがその前駆症状としては腰痛の出現でした。さらには歩行時の下肢の死ビリや指先の感覚異常が椎間板ヘルニアに見られる症状の大部分と言えます。これは椎骨が脊柱神経を圧迫するために出現する症状です。
 高齢化が進む現代では病院を受診する多くが知っての通り高齢の方です。ここで私が経験した実例を紹介します。80代女性のAさんは自宅で元気に暮らしている方でした。ある時、食欲不振を理由に内科を受診し検査を行いましたが全く内科的な問題は見つからず食欲不振は加齢による認知機能の低下ではないかと考えていました。別な日になるとその女性が玄関先で転倒し太ももに内出血が出来たことを理由に病院を受診しました。CT検査をしたところ椎間板ヘルニアの疑いがありMRI検査をしたところ椎間板ヘルニアの診断となりました。ではなぜ食欲不振が主症状として出現したのでしょうか。

加齢変化による姿勢の変化での内臓の圧迫

 加齢変化に伴い姿勢を保持するための筋肉量が減少していき円背になりやすいというのが高齢者の特徴です。また高齢者で運動量が少ない人などは特に筋肉を動かす機会がなくなり筋肉量の減少は著しくなる傾向にあります。円背が進んでいきますと人間に本来備わっている生理的湾曲が崩れてしまい様々な整形疾患を発症するリスクが高くなってしまいます。その中の一つが椎間板ヘルニアでその次に圧迫骨折や腰椎すべり症などが挙げられます。今回のAさんの場合にはAさんはもともと円背などはなく背筋もしっかりと伸びている方でした。しかし何らかの影響により知らないうちに椎間板ヘルニアが進行し自身でも違和感程度でしかない腰の症状があったと家族から情報がありました。しかしその違和感がずっと続き日に日に症状が進行することでAさんは楽な姿勢を捜し前のめりになっていき円背になりました。その結果、食欲不振を招いたものでした。円背が進んだことで内臓臓器が圧迫され食欲不振が症状として出現していました。ではなぜ違和感程度でしか腰の症状が出なかったのかを説明します。

閾値の個人差

 人間が痛みを感じるのにはこの閾値が大きく関与しています。人間の閾値とは痛いと感じるのに必要な力を意味します。例えば指に針先がツンと触れただけでも人間は痛いと感じる人もいれば針が完全に刺さっても痛みを感じない人がいます。これがいわゆる閾値の個人差と呼ばれるものです。特に高齢になればなるほどこの閾値が高くなる(よほどの痛みがない限りは痛みと認識しなくなることを意味します。)傾向にあります。Aさんの場合はMRI診断上では手術適応と言えるほどの中等症なヘルニアでしたが、痛みは出現していなかったのもこの閾値が加齢により高くなってしまっていたからと言えます。その後の神経学的所見では右足の親指に感覚障害が認められました。高齢になると症状の出現が若年者と比べて特異的になる傾向があります。

認知機能の低下

 高齢者が腰痛などの症状を訴えることが出来ない理由の2つ目に認知機能が関与しています。
日本では現在認知症を抱える65歳以上の高齢者が462万人とされその数は年々増加の一途をたどっています。そもそも認知症とは認知機能が正常に働かなくなった状態を指し、その原因などによりアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症の3つに分類されます。腰痛だけに限らず認知症を有する高齢者が何かの病気を発症するとその症状は一般の人に比べて発見するのが難しいと言えます。
私たちが生まれてすぐの時には、不快、痛い、眠いといった感情を泣くという動作で表現してきました。それはこれしか訴えるすべを知らなかったからです。大人になり訴える方法の幅が広がり言葉や体の動きで訴えることが出来るようになりました。これは認知機能が正常に働いていることを意味します。しかし高齢になり認知機能の低下(認知症を発症する)が起こると痛みを表現出来なくなり別な手段で訴えます。例えば徘徊や不穏といった日常生活の中で誰もが痛みを訴えているとは考えないような方法で表現します。ここで事例を紹介したいと思います。腰痛ではありませんが私が認知症病棟で勤務している時に夜中に大きな物音がしたために部屋を訪れると、ベッドの上で立ったり座ったりするAさん89歳の男性がいました。何がしたいのかは行動からは分からず、問いかけても返答はありませんでした。そのため当初は高齢者が夜間になりやすい夜間せん妄の可能性があると考え安定剤を使用するか悩みました。安定剤を使用するにもまずは血圧などが安定していることが条件のため測定すると200台とものすごく高く、何らかの疾患や疼痛の出現があることを考え原因を探しました。すると驚いたことに脇腹が変色しておりレントゲンで骨折が認められました。このような方法で自分の痛みを表現していた高齢者の方もいました。それくらい痛みや不快な感情の表現方法は多岐にわたります。

全身倦怠感や肩の痛みがヘルニアの症状!?

 ヘルニアになると若年者であれば腰痛として症状が出現しますが、高齢者の場合には心筋梗塞を疑うような症状で受診する人も少なくはありません。少し話はそれますが、腹痛を主訴に来院した人の重症度を測るために私は姿勢を観察します。かなりの腹痛を伴う場合にはたいていの人が“く”の字のような姿勢になり来院します。人間は痛みにより姿勢に変化が出てきます。そのため高齢者で腰椎ヘルニアによる腰痛や違和感が出現する場合にはそれにより楽な姿勢を探すため円背や極端に反った姿勢になるために他の筋肉に負担がかかり肩こりや疼痛、全身倦怠感が出現することがあります。これは比較的高齢者に見られる症状のため見落とされやすい症状となっているためある程度重度になってから病院へ来ることが多いというのが最近の事例ではほとんどです。

最後に

 高齢者の症状の出現の特徴としては症状が特異的、経過が教科書通りでないことがほとんどです。そのために先ほど記載した通り椎間板ヘルニアでも肩の痛みや腰の痛みを伴うなど明らかに内科系疾患を疑うような症状が出現することもあります。そのためほんの些細な症状や日常生活の変化でも自己判断で「都市でご飯が食べたくないだろう。」などと判断せずに必ず病院などを受診し検査をすることを大切にしてもらいたいと思います。在宅で暮らす高齢者が多くなったからこそ大切な視点だと思います。

<参考文献>
・水谷信子、「最新 老年看護学第3版」 日本看護協会出版会
・一般社団法人 日本集団災害医学会 「ファーストエイド実践マニュアル」

著者情報

腰痛メディア編集部
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