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腰痛の多くは姿勢の悪さや運動不足、冷えなどの日常的な原因から起こる安全性の高いものですが、稀に腫瘍による骨や神経の圧迫によって引き起こされるものもあります。「脊髄腫瘍」という病気もその一種です。この病気から起こる腰痛は、普通の腰痛とは違い、放っておくと日常生活の動作が困難になることや、場合によっては命を落とすこともあります。

今回はそんな脊髄腫瘍について、病気の特徴や治療法、生存率などを含めて解説します。腰痛が脊髄腫瘍によって引き起こされている確率はごくわずかですが、万が一罹患した場合は早期発見・早期治療が肝心ですので、以下の内容を参考に、ご自分の腰痛を振り返ってみてください。

脊髄腫瘍はかなり珍しい病気

脊髄腫瘍は10万人に1、2人に見られるというかなりレアな病気で、3つのタイプがあります。脊髄を包む硬膜の外側にできて脊髄を圧迫するタイプ①、脊髄と硬膜の間に腫瘍ができて脊髄を圧迫するタイプ②、脊髄の中から発生するタイプ③。

脊髄内の腫瘍が「髄内腫瘍」、脊髄と硬膜の間の腫瘍が「硬膜内髄外腫瘍」、硬膜の外の腫瘍が「硬膜外髄外腫瘍」と呼ばれます。原発性の脊髄腫瘍の場合は、大半が硬膜内髄外腫瘍、続いて多いのが髄外腫瘍です。硬膜内髄外腫瘍には、主に神経根近くにできる「神経鞘腫」と硬膜にできる「髄膜種」がありますが、このうち神経鞘腫が原発性脊髄腫瘍の50%程度を占めます。「神経膠腫」とも言う髄内腫瘍には、上衣腫と星細胞腫があり、脳腫瘍の場合と比較すると、脊髄腫瘍の髄内腫瘍は上衣腫であることが多いです。

脊髄や神経根、脊髄を包む硬膜の内部や周辺に腫瘍ができることによって、様々な症状を引き起こします。腫瘍には原発性のものと転移性のものがあり、原発性は多くが良性、転移性は悪性です。

脊髄圧迫を原因として起こる症状がメイン

首からお尻にかけて続いている脊髄には、頸髄・胸髄・腰髄という分類がありますが、そのどこに腫瘍ができるのかによって、脊髄腫瘍の症状は異なります。基本的な性質としては、腫瘍ができた場所より下の部位にしびれや麻痺などの脊髄症状が出ます。

脊髄腫瘍ができやすい部位は、胸髄です。胸髄に腫瘍ができると、腰痛や背部痛、胸部・腹部の麻痺、場合によって排尿障害・排便障害などを引き起こします。腰髄に腫瘍ができた場合は、腰痛や足の痺れを伴うことが多いです。これらの症状は主に腫瘍が神経を圧迫することによって生じますが、髄内腫瘍の場合は、神経が直接的に攻撃されます。まとめるとこんな感じです。

・頸部の場合
肩や手の痛み、頸部痛、巧緻動作困難感、手足の痺れ、ふらつき
・背部の場合
背部痛、両足の筋力低下、ふらつき、手足の痺れ
・腰部の場合
腰痛、足の痛み、筋力低下、手足の痺れ、ふらつき歩行時の痛み

頸部・背部・腰部の脊髄腫瘍でも、トイレで排尿・排便ともに出づらいといった症状が見られる場合もあります。神経(脊髄)は一定以上のダメージを受けると、麻痺が回復しなくなってしまうため、早期の治療が必要です。また手術によって神経を傷つける恐れもあるので、治療にも細心の注意が払われなければなりません。

腰痛は安静時の痛みや下肢のしびれを伴うのが特徴

胸髄や腰髄に腫瘍ができると、腰痛を引き起こしますが、脊髄腫瘍による腰痛の特徴は、安静時に痛みがあることや下肢のしびれを伴うことなどです。足がしびれるという点では「腰椎椎間板ヘルニア」や「腰部脊柱管狭窄症」などと似ており、脊髄腫瘍は非常にレアケースであることから、それらの病気と誤って診断されることもあります。

症状で注目すべきは安静時の痛みです。安静時に痛みがある場合は、脊髄腫瘍でなくても、内臓疾患やがんの骨転移など、重大な病気の可能性があるため、早期に医療期間を受診しましょう。

脊髄腫瘍による腰痛と上手な付き合い方

脊髄腫瘍の特徴や症状、治療法に関して理解できたと思いますが、脊髄腫瘍により引き起こされた腰痛はさまざまな要因が重なることで、さらに腰痛症状が悪化してしまう原因にもなりかねません。

もちろん、腰痛の原因が不明といった場合や原因が思い当たらない場合には、誰しも、漠然とした不安に駆られるといったこともあるでしょう。不安は積み重なれば重なるほど、周りに相談しづらく、一人で抱え込みがちになったり、痛みをより強く感じるようになったりしてしまいがちです。

さらに、不安のほか、病気に対する不安や恐怖、不眠、疲労といった症状が重なれば、腰痛どころではなく、それぞれの心を疲弊してしまいかねません。

腰痛と付き合っていく方法として、以下の点を意識してみてください。
・腰痛・他症状が生じた場合、その時の状況(腰痛が生じたタイミング、頻度、痛みの度合い・持続時間など)を振り返り、記録しておく。
・腰痛が生じた場合、一人で抱え込まない。
・腰痛がある場合、専門医へ早期に相談をして適切な治療を受ける。
・腰痛が悪化した場合、放置しない・無理しない。
・毎日、または1週間に数回など、適度な運動を取り入れる。

上記の点は、当たり前のことだと思う方もいると思いますが、腰痛というと誰しも簡単に捉えてしまいます。脊髄腫瘍などの病気が関連していた場合、症状が出たにも関わらず、大丈夫だろうと放置し、症状の悪化が見られ、病院を受診した時には手遅れだったということにもなりかねません。

腰痛1つでも、体が示してくれるサインは重要です。自分自身の体が示すサインに耳を傾けるようにし、腰痛症状としっかり向き合い、付き合えるようにしていきましょう。

脊髄腫瘍の治療法

脊髄腫瘍は症状や神経検査、磁気共鳴画像装置(MRI) で診断がつくことがほとんどです。治療法に関しては、薬物治療や放射線治療を行っても、なかなか腫瘍を除去しきれない病気といわれているため、全身麻酔を用いた手術療法が基本です。手術により、脊髄への圧迫を取り除き、腰痛や神経症状の改善を図ることが一番を考えられています。

脊髄は、日常生活で必要な動作「手足を動かす」動作を担う神経や温痛覚など感覚を担う神経など大切な神経が多く存在しているため、いかに傷つけずに腫瘍摘出するかが重要といえるでしょう。腫瘍の進行・癒着状況や大きさにより、手術の難易度も異なるため、完全に腫瘍の除去ができない場合もあります。そのように腫瘍が取りきれない場合、残った腫瘍に対して化学療法や放射線治療を行うこともあるでしょう。

術後は、日常生活への復帰を目指し、離床を積極的に進めていきます。問題がなければ、2週間程度で退院可能です。症状の改善や合併症の出現に関しては、個人差があるため、一概にはいえませんが、新たにまひや神経症状が出た場合などは、リハビリしていく必要があるでしょう。

脊髄腫瘍になったからといって、今までの生活習慣が病気を引き起こしたというわけではありません。しかし、自分の生活習慣を見直し、新たな症状や病気の予防もかねて、食生活や運動習慣の改善を図っていくことは大切でしょう。病気との付き合い方、腰痛との付き合い方は人それぞれ、生活リズムや仕事が異なるように、違って当然です。専門医へ相談しながら、自分に負担のない程度に、良い習慣を取り入れていけると良いでしょう。

多くは良性で手術すればほとんど再発しない

原発性脊髄腫瘍の多くは良性の腫瘍です。手術によって腫瘍を全て取り除けば、再発することはほとんどないと言われています。良性の割合は7割程度とされているので、10万人に1、2人の発症確率であることを踏まえると、原発性の脊髄腫瘍が悪性で命に関わるというケースはかなり珍しいです。

手術の難易度は、腫瘍の種類によって異なります。髄外腫瘍の場合は、脊髄と腫瘍の境がはっきりしているので、手術の成功率はかなり高いです。一方で髄内腫瘍、とくに星細胞腫の場合は、脊髄と腫瘍の境が不明瞭であり、手術には高度な技術を伴います。手術によって腫瘍を全部摘出できない場合は、放射線治療などが併せて行われることもあります。

なお、良性腫瘍ならサイズが小さかったり、無症状であったりする場合は、急いで摘出する必要はなく、経過観察になることも多いです。

入院期間は2週間〜、費用はケースバイケース

脊髄腫瘍の手術でどのくらいの入院期間が必要であるかは、どのような治療を行うかによって異なりますが、早ければ2週間程度で退院できると言われています。大半が2週間もすれば回復するとされているので、1ヶ月もあれば退院できる可能性が高いです。発見から1ヶ月半程度で大学に復帰できた学生の症例も報告されています。

費用は治療によって様々です。先述した通り、腫瘍のできる部位によっては放射線治療などが必要になることもありますし、人によっては術後にリハビリがあるので、一概には決められません。また脊髄腫瘍は稀な病気であるため、治療額の相場を算出してもあまり当てにならないでしょう。

危険度が高いのは髄内腫瘍と硬膜外の転移性腫瘍

脊髄腫瘍には良性が多く、発症確率も低いことから、命につながるケースはそれほど多くありません。良性の髄外腫瘍であれば、摘出手術もそれほど難しくないので、危険度は低く、生存率はかなり高いと言えます。

一方で悪性の髄内腫瘍や硬膜外にできる転移性脊椎腫瘍に関しては、危険度がかなり高いです。悪性の髄内腫瘍は手術の難易度が高く、腫瘍を全摘することが困難であるため、放射線治療や抗がん剤などが併用されます。しかし、比較的早い段階で死に至る場合が多いとされています。

また転移性脊椎腫瘍の場合は、硬膜外の腫瘍を取り除いても、原発巣の治療をしなければ治すことは難しいです。そのため、腫瘍を取り除く手術はそれほど一般的ではありません。余命によってその手術に耐えられないこともあります。

しびれを伴う腰痛の代表例は椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症

脊髄腫瘍は腰痛に加えて、足のしびれを伴うため、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などと間違って診断されることもあります。しかし、脊髄腫瘍の発症確率を考えると、診断が誤りである可能性はかなり低いです。

もちろんMRIなどの検査を受けて、悪性腫瘍の可能性がないことを確かめることは重要ですが、基本的にはあまり心配しないで、腰痛を改善するための運動療法などを実践していきましょう。

「腰痛ドクターアプリ」で腰痛の状態を調べてみよう!

腰椎椎間板ヘルニアなのか、腰部脊柱管狭窄症なのか、それともただの慢性腰痛なのか、自分の腰痛についてよくわかっていないという方は、「腰痛ドクターアプリ」というオンラインサービスを使って、ご自身の腰の状態を調べてみてください。

「腰痛ドクターアプリ」では、オンライン上で自動問診に答えることで、専門的な病態評価(腰痛の状態と危険度の判定)をしてもらえます。具体的な病名についても、パーセンテージで可能性を示してもらえるため、病院に行きたいけどなかなか時間が取れないというような方におすすめです。

脊髄腫瘍の多くは良性、手術で改善できる

脊髄腫瘍の7割程度は良性であり、手術で腫瘍を全て摘出すれば、再発する心配はほとんどありません。ただし、悪性の原発性腫瘍や転移性脊椎腫瘍の可能性もあるので、安静時にも腰痛が起きたり、痛みがだんだん強くなってきたりする場合は、早めに医療機関を受診しましょう。なお、足のしびれを伴う腰痛なら、脊髄腫瘍よりも椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の方が確率は高いです。自分の腰痛の原因がなんなのかを知りたい方は、「腰痛ドクターアプリ」もぜひお試しください。

参考URL
医療法人鉄蕉会 医療ポータルサイト, 「脊椎脊髄腫瘍の話」, <http://www.kameda.com/patient/topic/spinal/15/index.html>, 2021/03/02
脊椎手術.com, 「脊椎腫瘍/ 脊髄腫瘍」, <https://www.sekitsui.com/disease/tumor/>, 2021/03/02
KOMPAS, 「脊椎・脊髄腫瘍とは」, <http://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000183.html>, 2021/03/02
東医療センター脳神経外科, 「脊椎脊髄疾患」, <http://twmu-mcens.jp/case1404001.html>, 2021/03/02
脳神経外科疾患情報ページ, 「脊髄腫瘍」, <https://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/405.html>, 2021/03/02
恩賜財団 済生会, 「脊髄腫瘍」, <https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/spinal_cord_tumor/>, 2021/03/02
東京女子医科大学 脳神経外科, 「脊髄腫瘍」, <http://www.twmu.ac.jp/NIJ/column/sekizuigeka/sekizui.html>, 2021/03/02
亀田メディカルセンター|亀田総合病院 脊椎脊髄外科, 「脊髄腫瘍」, <http://www.kameda.com/pr/spine/post_23.html>, 2021/03/02
東京都立神経病院, 「脊髄腫瘍」, <https://www.byouin.metro.tokyo.lg.jp/tmnh/medical/medical/neuro-surgery/disease/001.htm

国民生活基礎調査|厚生労働省
脊髄腫瘍|東京都立神経病院
脊髄腫瘍|社会福祉法人 恩賜財団 済生会
脊髄腫瘍|脳神経外科疾患情報ページ|Neuroinfo Japan

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腰痛メディア編集部
腰痛メディア編集部

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