腰痛の原因にはさまざまな種類があります。圧迫骨折のように骨が原因で腰痛が起こることもあれば、ぎっくり腰のように腰の筋肉が原因で惹起される痛みもあります。そして、「椎間板」も腰痛の主要な原因の一つです。

椎間板は、脊椎(=背骨)と脊椎に挟まれるように位置する組織ですが、この椎間板が変性することで起こる腰痛もあるのです。椎間板変性の原因は多岐にわたりますが、なかでも重要な原因に加齢があります。ご存じのように、現在の日本は超高齢社会に突入し、今後も高齢者の数は増え続けます。そのため、加齢に起因する椎間板の変性、ならびに腰痛も増加することが懸念されているのです。

しかし、残念ながら、現在の医療では変性した椎間板を治す術はありません。椎間板を治せない代わりに、変性した組織を摘出して神経の圧迫を取り除いたり、金属プレートなどで脊椎を固定する手術がおこなわれているのが現状です。

そこで注目されるのが、いま話題の「再生医療」です。ニュースなどで「患者から採取した組織を培養し、精製した心筋細胞を患者に戻すことで、心臓の機能が回復した」という内容を見聞きした方も多いのではないでしょうか。

この再生医療は心臓に限った話ではなく、椎間板の治療においても現実味を帯びてきました。現在の椎間板再生医療は、すでに研究段階を抜け、実際の医療の現場において効果を検証する段階まで来ているのです。 もしかしたら数年以内に、本格的に実用化される可能性すらあります。

今回の記事では、腰痛治療の最先端として「椎間板の再生医療」についてお伝えしたいと思います。椎間板の変性を指摘されている方や、慢性的な腰の痛みにお悩みの方にとっては、再生医療が希望の光になる可能性もあります。興味のある方は、ぜひお付き合いください。

椎間板の変性ってなに?

椎間板は2つの腰の骨(椎骨)の間に存在するクッション性の組織で、脊椎に加わる荷重を分散する効果があります。椎間板のおかげで、私たちは体を前後屈させたり、回旋させたりできるのです。

椎間板の最大の特徴は、「無血管組織」であることです。血管は酸素や栄養分を全身に届けるパイプのような役割を果たしているので、血流が豊富な組織ほど傷の治りも早いのです。そのため、「無血管組織」である椎間板が一度でも損傷や変性を受ければ、その修復は難しい場合も多いのです。

椎間板の変性は、加齢、外傷、ストレス、タバコ、生活習慣など複数の要因が複雑に交錯して起こると報告されています。なかでも、加齢は椎間板の変性を大きく進行させることが知られており、超高齢社会に突入した日本では、椎間板変性による腰痛がさらに増加する可能性が懸念されているのです。

椎間板変性疾患に対する治療の現状

現在のところ、腰痛に対する治療の選択は限定的と言わざるをえません。幸いなことに、腰痛の大部分は軽症に分類されるため、鎮痛薬の投与やブロック治療、リハビリ介入などで軽快することも多いのです。ガイドラインに沿った正しい腰痛治療に関しては、こちらで詳しく説明しているので、興味がある方はご参考ください。(→「急性腰痛の薬は何を飲む?ガイドラインに準拠した正しい薬物治療」「薬だけに頼らない!ガイドラインに準拠した急性腰痛の薬物以外の治療法 」へリンク)

しかし、これらの治療はあくまでも対症療法でしかなく、腰痛の根本的な解決策とは言えません。腰痛の原因や程度によっては、症状の寛解と増悪を繰り返すことで、慢性腰痛に移行するケースもあります。そのため、対症療法以外の治療法、つまり再生医療のような根本的な治療法の存在が必要不可欠なのです。

これは、椎間板変性を主体とする腰痛にも当てはまります。例えば、椎間板ヘルニアで神経症状を伴う症例に対しては、整形外科的手術(椎間板切除術や脊椎固定術など)が施行されますが、これらは、変性した椎間板を取り除いたり、骨を固定するだけの治療であり、椎間板の代替になる治療とはいえません。

そこで、今後は正常な椎間板を取り戻すような「再生医療」が求められます。つまり、椎間板の修復を促すような細胞を患者に移植することで、正常な椎間板が再生されれば、椎間板性腰痛腰痛の根本的な解決につながるということです。

椎間板再生医療の現状

先ほどもお伝えしたように、椎間板という組織は損傷を受けても再生しにくい組織です。よって、患者自身の治癒力だけでの椎間板再生には限界があり、医療による介入が必要なのです。具体的には、患者から採取した椎間板組織を培養液を用いて増殖させた後に、患者の椎間板へ移植する治療が施行されています。

世界的には、既に椎間板変性症に対する細胞移植治療は治験の段階を迎えており、高い安全性と有効性が評価されています。研究によっては、”椎間板ヘルニア摘出後に細胞移植を行った患者のほうが、細胞移植を行わなかった患者に比べて、長期的に痛みが改善した”という結果が得られているのです。

2019年からは、日本においても椎間板変性症に対する細胞移植の治験が始まりました。この治験で移植された椎間板細胞は、患者自身の椎間板細胞を培養した物ではなく、他者の椎間板細胞を原料にして精製されたものです。よって、従来の再生医療とは違い、工場などで
大量に生産できる可能性もあり、医療コストや治療時間の観点からもメリットがあります。

ただし、この椎間板再生医療は、まだ治験の域を出ておらず、全国の椎間板変性患者に適応できるわけではありませんので、ご注意ください。現在この再生医療は、「単一の腰椎椎間
板変性症」を疑われ、「慢性的な腰痛」をもつ患者で、「3ヵ月間以上の治療を行っても効果がない」方を対象として、治験を行っている段階なのです。治験が終了し、安全性や有効性が実証されることで、はれて標準治療として全国展開されるのです。そのため、読者のみなさんが、この椎間板再生治療を受けるには、もう数年は時間を要するもの思われます。

まとめ:椎間板変性疾患の根本的治療には再生医療が不可欠。

今回の記事では、椎間板変性疾患に対する根本的な解決策として「椎間板再生治療」をお伝えしました。腰痛の原因は多岐にわたりますが、そのなかでも椎間板に由来する腰痛は大きなウェイトを占めます。一方で、椎間板変性疾患に対する治療の現状としては、対症療法が主体になっており、抜本的な治療は行えておりません。また、脊椎疾患に対する外科的治療は侵襲も大きく、患者の大部分を占める高齢者に対して優しい治療とは言い難いでしょう。

椎間板再生治療は、外科的治療に比べて非常に低侵襲で、かつ椎間板変性に対する抜本的な治療法になります。治験が終了し、標準治療として認可されれば、たくさんの腰痛患者の希望になることは間違いないでしょう。

現代の医療技術の進歩は目覚ましいものがあり、日々新しい治療法が開発されています。そして、これは腰痛の分野に関しても言えることです。現在、慢性的な腰痛で苦しんでいる方にも朗報が舞い込む可能性は十分にあります。椎間板再生医療に期待して待ちましょう。

●参考文献
・【間葉系幹細胞治療の現状と課題】脂肪由来間葉系幹細胞を用いた椎間板再生
石黒 博之, 海渡 貴司
整形・災害外科 (0387-4095)61巻11号 Page1381-1388(2018.10)

・標準整形外科学 第14版

著者情報

広下若葉
広下若葉

保持資格

医師国家資格・麻酔科標榜医

経歴

2015年:医師国家資格 取得

2017年:初期臨床研修プログラム 修了

2020年:麻酔科標榜医 取得

    麻酔科専門研修プログラム 修了

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