なかなか取れない長く続く腰痛。
つらいですよね。

腰痛は全人類の約80%の人が、生涯に一度は経験すると言われています。
もはや国民病どころか人間病とすら言えるでしょう。

ギックリ腰と呼ばれるいわゆる急性腰痛は椎間板や関節や、筋肉などの組織が傷つき、炎症が起きることで生じます。
その炎症が落ち着けば痛みがなくなるはずですが、中には痛みがそのまま持続してしまう人もいます。

急性腰痛が発症した患者さんに対して、その後の痛みの経過をみた研究では、58%に人が3カ月以内で改善が見られたにもかかわらず、42%の人で3カ月以降も痛みが残存したと報告されています。(Friedman BW.2012)

そんな痛みが長く残りやすい腰痛ですが、最近では「長く続く腰痛は脳が原因」と言われることも多くなり、「え?私の腰痛って気持ちなの?こんなに痛いのに?」とショックを受けた方は少なくないでしょう。

しかしこれは誤解です。
長く続く腰痛の原因はあくまで「脳」であって、「気持ち」ではありません。

そして自分の脳で何が起きているのかを知ることが、長く続く腰痛を改善する糸口になることが最近の研究で明らかになっています。

今回はそんな長く続く腰痛、「慢性腰痛」を持つ方の頭の中で何が起きているのか。
そしてそれを知ることによって得られるメリットについて解説します。

長く続く腰痛「慢性腰痛」ってなに?

慢性腰痛の定義

腰痛の説明書ともいえる腰痛診療ガイドライン2019において慢性腰痛の定義は
「3カ月以上継続する腰痛」とされています。

一般的に組織の損傷に伴う炎症というのは2~4週間で改善するとされていることから「組織の回復期間を過ぎても継続する痛み」と説明する場合もあります。

慢性腰痛の特徴

一般的な急性腰痛は、発症してすぐであれば安静にしていても痛かったり、特定の動きで痛みが強くなったり楽になったりする特徴があります。
また痛い場所を聞くと「ここが痛い!」と場所がはっきりとしている場合が多いです。

しかし、慢性腰痛では痛くなる特定の動きがない、または場所を聞いてもどこか場所がはっきりしないという特徴があります。
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また、急性腰痛とは違い、抑うつ状態や不安症状など、精神的な変化を伴うことも多いのが大きな特徴とも言えるでしょう。

心因性腰痛といわれることもある

長く続く慢性痛は抑うつや不安などの精神的な変化を伴うことから、心因性腰痛と言われることもあります。
心因性と聞くと、「気持ちが原因」と誤解されやすいですが、冒頭にも述べたとおり、これは誤解です。

最近では画像診断機器の発達により脳科学の研究が進み、慢性腰痛には「脳の変化が関与する」という事実が明らかになってきています。

慢性腰痛を持つ人の脳はどうなってる?

脳は痛みにブレーキをかけている

体がどこも痛くない。いわゆる健常な人の脳の中では、常に痛みに対してブレーキがかけられています。
例えば、机の角に腕を腫れるぐらい強くぶつけたとします。
その場では痛みを感じると思いますが、ずっと痛みを同じように感じているわけじゃありませんよね?
徐々に痛みは軽くなり、その後なにか別の作業を行なっていると痛いことを忘れることはよくあると思います。

これはぶつけた後、すぐに回復したわけではなく、痛みを受けたその部位の痛みに対して脳がブレーキをかけている結果生じる現象です。

難しい言葉になりますが、このブレーキ作用を「下降性疼痛抑制系」と痛み研究の中で呼ばれています。
小難しい名称になりますので覚える必要はありません。
大事なのは、脳は痛みに対して常にブレーキをかけているという事実です。
このブレーキ作用があるからこそ、人は痛みを受けたとしても動きを止めずに活動を続けることができるのです。

もしこの作用がなかったとしたら、人は少しの痛みで動きを止めてしまい、原始時代に行われていた、自分たちより強い生き物達との生存競争に勝ち残ることはなかったでしょう。

ブレーキ作用は前向きになると強く働く

ブレーキ作用をコントロールしている脳の部位はいくつか報告されていますが、共通しているのは、物事を前向きに捉える部位の関与です。

人はポジティブな気持ちになると前側の脳の表面に近い部位である「外側前頭前野」という部位が強く働くと言われています。
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この外側前頭前野とブレーキ作用は密接な関係があります。

この部位の活動が低くネガティブな思考をもった人では痛みを強く感じやすく、
逆に活動が高くポジティブな思考を持った人は痛みを感じにくいと多くの研究で報告されています。

そのことから前向きでポジティブな感情が痛みに対するブレーキ作用を強くすることは疑いようのない事実と言えるでしょう。

慢性腰痛を持つ人はブレーキ作用が弱まる

慢性疼痛を持つ人の脳ではブレーキ作用に大きく関わる外側前頭前野の働きが著しく低下しているといわれています。

それにより、同じ痛みを受けたとしても、健常な人に比べて強い痛みを訴えることが明らかになっているのです。

これは痛みに対して弱いとか根性がないといった精神論ではなく、長く痛みにさらされすぎた結果起きた、脳活動の変化というれっきとした「症状」なのです。

どうすれば慢性腰痛は良くなるの?

そんな脳の活動が強く影響している慢性腰痛ですが、2016年に行われたLeeらの行なった研究で非常に面白いものがあります。

その研究とは、
患者さん自身がこういった痛みに対する正しい知識を得ることによって、ネガティブな思考や誤った痛みの認識というのが改善され、慢性の痛みに改善がみられたというものです。

自分の痛みが体のどこかが壊れてしまったことによって起きているのではなく、痛みによって脳が変化してしまった結果起きている。
と、理解することで運動や生活に対する恐怖感が薄れ、結果としてポジティブな考え方ができるようになり、痛みのブレーキ作用が高まったと結論付けられています。

このことから、慢性腰痛を改善する上では、自分の痛みを正しく知ることが非常に重要であるといえるでしょう。

適度な有酸素運動もブレーキ作用を高める

少し息が上がるぐらいの30分~1時間程度の有酸素運動は前述した痛みのブレーキ作用に関わる外側前頭前野の活動を増加し痛みを軽減するといわれています。

これは運動による鎮痛効果。通称EIH(exercise-induced hypoalgesia)と呼ばれ、科学的に認められている効果です。

慢性疼痛に対する正しい知識を理解し、痛みや運動に対する恐怖感が減らした上で、前向きな気持ちで有酸素運動を行なったり、活動的な生活を送ったりすることで慢性疼痛が改善する可能性は高まります。

レッドフラッグには注意しよう!

ここまで解説してきた慢性腰痛は体の組織の損傷がない。ということが前提です。
例えば椎間板や関節、骨、靭帯などになにか重大な病変があり、それが持続している場合ももちろんあります。

こういった病院に真っ先にかかるべき重大な病変のことを「レッドフラッグ」といいます。

レッドフラッグの基準は以下の通りです
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これらのどれかに当てはまる場合には無理せずに、必ず病院へ行くようにしましょう。

まずは自分の痛みと向き合おう

長く続く腰痛。慢性腰痛は多くの場合、体の組織が壊れて起きているわけでも、気持ちの問題で痛くなっているわけでもなく、脳の変化によって起きています。
決してあなたの心が弱いせいではありません。

長く痛みにさらされれば誰でも起きる可能性があるのです。

しかし、そんなつらい慢性腰痛も、正しい痛みの知識をつけた上で、活動的な毎日を送ることができれば改善できる可能性は高まります。

ぜひ、自分の痛みと向き合って前向きに日々を過ごしていただければと思います。

著者情報

腰痛メディア編集部
腰痛メディア編集部

痛みや体の不調で悩むあなたへ、役立つ情報をお届け。

自分の体の状況(病態)を正しく理解し、セルフマネジメントできるようになることが私たちの目的です。

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