がんが骨に転移している、と聞くと、『いよいよもうダメか』『かなり痛むのかな』などと想像してしまうかもしれません。特に、「脊椎」「背骨」は体の中でも大事な部位のように感じますから、不安も大きくなりやすいでしょう。
 骨に転移したこと自体は、命の問題には関わりません。さまざまな症状によって日常生活に支障も出やすくなってしまいます。今回は、脊椎にがん細胞が転移することについて、また、治療法と気をつけることについて、解説していきます。

骨に転移する仕組みと転移性脊椎腫瘍について

 骨に「がん細胞」が転移することを「骨転移」と言いますが、脊椎に転移したがんのことは特に「転移性脊椎腫瘍」「脊椎転移」等と呼びます。現在がん治療中の方や、がん治療を過去にしていた方では、骨に転移する可能性はいつでもあると考えておいて良いでしょう。
 骨は、日頃から「骨融解」と「骨形成」を繰り返すことで、骨を健康な状態に保っています。「骨融解」とは、古くなった骨の細胞を溶かして取り除くことです。「骨形成」とは、新しい骨の細胞を作ることです。通常、この2つの働きはバランスよく行われているため、骨が脆くなったり硬くなりすぎたりすることはありません。
がん細胞は、自分が骨に入り込みやすくなるように、「骨融解」する細胞をたくさん呼び寄せ、骨の中にスペースを作ります。そのスペースに入り込んだ後は、足場をしっかりさせるために「骨形成」する細胞をたくさん呼び寄せ、骨の中に定着します。がん細胞には、自分が住みやすい環境を勝手に作り出す仕組みがあるのです。この仕組みによって、骨の健康が損なわれ、脆くなってしまいます。
 「転移性脊椎腫瘍」では、脊椎(背骨)の中にがん細胞という異物が入ってしまっているために、通常とは異なる内側からの圧力がかかっていたり、骨が脆くなったりしています。その影響で、普通に生活しているだけでも、体の重みで骨折してしまうことがあるのです。

1-1. がんは骨の中でも脊椎に転移しやすい
 がん細胞は、血液の流れに乗って体の至るところに移動し、移動した先で定着することで転移します。骨に転移するのは特に珍しいことではありません。また、骨の中でも脊椎や骨盤、肋骨など、体の中心にある大きな骨に転移しやすい特徴があります。
さらに、がんの種類によっても骨への転移のしやすさは異なります。肺がん・乳がん・腎臓がん・前立腺がんは、骨に転移する可能性の高いがんとして知られています。
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(骨転移診療ガイドライン)

1-2. 転移性脊椎腫瘍の症状
 転移性脊椎腫瘍では、骨が脆くなった結果、脊椎が骨折を起こしていることがあり、痛みを伴う場合も多いです。また、神経を圧迫している場合には、手や足に痺れや麻痺を生じます。
 神経は脊椎から伸びているため、痛んでいる神経の部位によって図のように帯状に「ビリビリ・チクチクした痛み」が出やすいという特徴があります。
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(日本緩和医療学会:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン)
通常の腰や背中の痛みとは異なり、ぶつけたなどの原因が思い当たらない、時間が経っても良くならない、といった特徴があります。

転移性脊椎腫瘍は治せるの?

症状の進み具合や転移している部位によって、可能な治療方法は異なります。ご自身に合う治療法がどれなのかについては主治医と相談してください。一般的にどのような方法があるのかをご紹介します。
2-1. 手術で転移のある脊椎を人工の脊椎と入れ替える
 手術をするには年齢や体力、原発がんの予後などの条件をクリアする必要があるので、誰でも手術ができるというわけではありません。しかし、比較的「治す」に近い治療法です。
2-2. 飲み薬や点滴で治療する
 骨の中に入り込んだがん細胞を殺すために、抗がん剤治療やホルモン剤治療を行う場合があります。また、がん細胞の影響で「骨融解」と「骨形成」のバランスが崩れた状態を改善するために、点滴の治療を行う場合もあります。
2-3. 放射線治療をする
痛みを軽減させるために、転移している部位に放射線を当てる治療法があります。麻痺が出ている場合には、麻痺が出てから数日以内に放射線治療を開始することができれば、麻痺を回復させられる可能性もあります。
2-4. 痛み止めを使う
 骨折や神経の圧迫により強い痛みが生じている場合には、医療用の麻薬などの強い痛み止めを使うことで、痛みを緩和させられるかもしれません。痛みを我慢しすぎてしまうと、少しの刺激でも痛く感じてしまうようになるので、我慢せずにしっかりと薬を使いましょう。
2-5. コルセットを作る、リハビリを行う
 転移性脊椎腫瘍では、特に体を動かすときに痛みが強くなりやすいです。寝返りなどの動作で体が捻ったり、起き上がるのに上半身に力がかかったりすると、痛みが増してしまいます。そこで、個人の体にあったコルセットを作り、転移した部位に力をかかりにくくする方法が有効です。
 がんが骨に転移している場合、骨が脆くなっているため、転んだりぶつけたりすることで簡単に骨折してしまう可能性があります。リハビリを行い、骨折しないような歩き方を学んだり、体力をつけたりすることも大切な治療の1つです。
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転移性脊椎腫瘍がある場合に気をつけること

骨転移があると言われている方、骨転移かもしれないと不安な方に気をつけて欲しいことが2つあります。
3-1. カルシウムのサプリを飲まない
『骨が脆くなっているのだから、カルシウムのサプリを摂ったらどうだろう?』と考える気持ちはわかります。しかし、あまり意味がないだけでなく、かえって体に良くない影響を与えるかもしれないのです。
 骨転移がある方は、「骨融解」の影響で血液中のカルシウム濃度が高くなりやすい傾向にあります。サプリを摂ると、さらにカルシウム濃度が上がってしまいます。血液中のカルシウム濃度があまりにも高くなりすぎると、食欲がなくなったり、だるさや吐き気を感じたり、酷い場合には意識が朦朧とする場合もあります。乳製品など食品を食べる分にはほとんど問題ありませんが、サプリを自分の判断で飲まないように注意しましょう。
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3-2. 受診を待たない・遠慮しない
 転移性脊椎腫瘍では、手足に麻痺が出る可能性があると説明しました。麻痺は、できるだけ早く治療を始めることがとても重要です。『来月の受診の時に言おう』『急には予約取れないから…』と先延ばしにせず、かかりつけ医に連絡しましょう。もし、がんを診てもらっている病院が遠くてすぐに行けない…など事情がある場合には、近所の整形外科で『がんの治療をしている(していた)』と伝えるようにしてください。

症状を抑えて自分らしい生活を

転移性脊椎腫瘍について、少し理解することができたでしょうか。放っておけば、痛みや麻痺などで生活に支障が出る可能性がありますが、決して対処法のないものではありません。痛みをとり、自分のしたいことが続けられるようにサポートを受けましょう。
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著者情報

腰痛メディア編集部
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