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脊髄腫瘍は、頻度としては稀な部類のがんです。

人口10万人あたり2人程度しか患者さんがいないと言われています。同じ神経系のがんには脳腫瘍がありますが、患者さんの数は脳腫瘍の1/10とさらに少ないのです。周りに同じ病気の人があまりいないので、「あなたに脊髄腫瘍が見つかりました」と伝えられたら、不安でいっぱいになってしまうでしょう。

脊髄腫瘍とは何なのか、どういった経過を辿ることが多いのか。正しい情報を知ることが、あなたらしい人生を送り続けるために必要になります。

脊髄腫瘍は大きく分けて3種類

脊髄腫瘍は、その名の通り脊髄にできる「がん」のことです。脊髄は、背骨の中にある神経の集まりのことで、3つの膜からなる髄膜で覆われています。

硬膜外腫瘍

脊髄を覆っている髄膜のうち、最も外側の「硬膜」よりも外側にできた腫瘍を指します。他の臓器のがんからの転移で出来たものが多いです。元のがんがコントロールされているか、脊髄腫瘍による症状が強いかどうかで、手術を行うかどうか個別に判断します。

硬膜内髄外腫瘍

髄膜と脊髄の間にできた腫瘍を指します。硬膜の内側にできる腫瘍(硬膜内腫瘍)の大半はこのタイプで、良性腫瘍も多いです。良性とは言っても、徐々に大きくなり、脊髄を圧迫すると様々な症状を引き起こしますので、原則的には手術を行います。

硬膜内髄内腫瘍

脊髄の内側にできた腫瘍のことです。内側から脊髄を圧迫して症状を引き起こします。また、周りの脊髄に絡み合うこともあるため脊髄との境目が曖昧になり、手術で摘出できない場合があるのが特徴です。子供に比較的多い「星細胞腫」という種類の髄内腫瘍の場合は、悪性と良性で全くその後の経過が異なり、再発の可能性もあります。

腫瘍の場所によって変わる様々な症状

脊髄腫瘍は、神経を圧迫したり巻き込んだりすることで様々な症状を引き起こします。背骨は、24個の椎骨が連なっており、上から「頸椎(C)・胸椎(T)・腰椎(L)・仙椎」4つのブロックに分けられます。1つ1つの椎骨から体の特定の部位に神経が張り巡らされているため、腫瘍ができた位置によって生じる症状は変わるのです。

基本的には、腫瘍のある部位よりも下側に症状が出てきます。

(日本緩和医療学会HPより)

首:頸椎の場合

手足や体幹の感覚が鈍くなったり、痺れや麻痺が起こります。比較的広範囲に症状が出てしまいます。

胸:胸椎の場合

腫瘍のある部位よりも下の胸や腹部の感覚が鈍くなったり、足の運動に支障が出たりします。脊髄腫瘍のうち、最も腫瘍ができやすい部位です。

腰:腰椎の場合

足の運動に支障が出ます。動かしにくさや痺れなどの影響で歩行がしにくくなる場合があります。

脊髄腫瘍に特徴的な症状は?

この場所のこういう症状だから脊髄腫瘍だ、と言える特徴的なものはありません。初めは、腰痛や背部痛で気がつく場合が多いと言われています。持続する、心当たりのない腰痛や背部痛、痺れなどがある場合には、マッサージやストレッチなど自己流でなんとかしようとせず、しっかりと病院で詳しい検査をすることが大切です。

また、症状が進行すると、排尿や排便がうまくいかなくなることもあります。「排便をする」という命令がうまく伝えられないために便秘になったり、「尿を出す」という命令がうまく伝わらないために尿が出にくくなったり、様々な症状を呈します。

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治療の基本は手術

硬膜外腫瘍、髄外腫瘍、髄内腫瘍の全てで、可能な限りは手術を行うことが勧められています。手術で「完治」できる場合とそうでない場合があるのですが、腫瘍を取り除くことで脊髄の圧迫がなくなり、痺れや麻痺などの症状を改善することも期待されます。

腫瘍の種類によっては、抗癌剤治療や放射線治療も選択肢になります。抗がん剤は、脊髄腫瘍に対してはまだまだ発展途上の治療で、効果があると強くおすすめされている薬はない状況です。

脊髄腫瘍の生存率

脊髄腫瘍の生存率は、悪性の場合は平均で約10ヶ月、5年生存率が3%となっています。

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痛みや痺れ、排尿障害などには薬物治療

手術ができない場合や、手術をしても症状が残ってしまった場合などには、もちろん薬で対応をしていくことになります。腰痛や背部痛に、通常の痛み止めが効く場合もあれば、医療用の麻薬などの強めの痛み止めが必要な場合もあります。

神経の痛みは特殊なので、数種類の痛み止めを組み合わせることでやっと効果が得られることもあります。排尿がうまくコントロールできない場合には、頻尿に対応する薬や、排尿しにくさを改善する薬などを使用します。

リハビリも効果的

痛みを生じさせにくい動き方を学んだり、筋肉の萎縮を予防したり、車椅子へ自分で移動できるようにしたりするために、リハビリも行いましょう。自宅で過ごす時間を長くしたり、やりたいことをいつまでもやれるようにしたりするために役立ちます。

脊髄腫瘍になりやすい要因は見つかっていない

神経の病気のうち、いくつかには遺伝の影響がわかっているものもあります。ですが、脊髄腫瘍には今のところ、遺伝の要因はないと考えられています。

<腫瘍のタイプ>
髄外腫瘍(神経鞘腫>髄膜腫)
髄内腫瘍(上衣腫>星細胞腫>血管芽腫)

髄外腫瘍の1つである神経鞘腫は、遺伝疾患の「神経線維腫症」に合併することがありますが、髄外腫瘍自体は遺伝疾患ではありません。髄膜腫は、中年以降の女性に多いため、女性ホルモンとの関連が考えられていますが、まだ詳しいことはわかっていません。

転移も多いとお伝えしましたが、肺癌・乳がん・前立腺がんなどからの転移が多いとされています。これらのがんに罹患されている方で、持続する強い腰痛や手足の動かしにくさ等が気になる方は、主治医の先生に伝えましょう。

脊髄腫瘍は比較的予後の良い「がん」

脊髄腫瘍は、ごく稀ながんのため、診断されたら心配になってしまうかもしれません。ですが、種類によっては良性のことも、手術で完治が見込めることもあります。進行の早さも人によりまちまちで、ゆっくりと進行する場合も多いです。

主治医や他のスタッフと相談しながら、薬物治療やリハビリなどをしっかりと続けていくことが大切です。進行していけば歩けなくなることもありますが、痛みや痺れなどの症状を抑えることができれば、家での日常生活を続けることも可能です。

出来なくなるかもしれないこと、リハビリなどで機能を維持できること、それぞれを知って、あなたらしい毎日を過ごしていきましょう。

参照:脊髄腫瘍,脊髄脊推腫瘍の診断と治療,脊髄腫瘍

著者情報

腰痛メディア編集部
腰痛メディア編集部

痛みや体の不調で悩むあなたへ、役立つ情報をお届け。

自分の体の状況(病態)を正しく理解し、セルフマネジメントできるようになることが私たちの目的です。

記事のご意見・ご感想お待ちしております。

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著者情報

中山アユム
中山アユム

専門

薬剤師、病院薬学認定薬剤師

経歴

薬剤師免許取得後、国立大学病院、市立病院など総合病院で研鑽を積んだのち、現在は緩和ケアやリハビリをメインとする病院で勤務。

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