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ステイホームや在宅勤務の増加により,人々の日常生活の運動量は大幅に低下していることが報告されています1).

「以前より体を動かす頻度が減った」
「ずっと家で座っているばかりで,腰が痛む」
「デスクワークで,肩とか腰がよく凝る」

ステイホームによる長時間のデスクワークや,スマホ・パソコンの利用は,運動量の低下だけでなく,腰痛さらには健康までも害する危険性があります.

恐ろしいことに,一日の座位時間が合計8.3時間を超える人は,6.4時間以下である人にくらべて,強い腰痛を有する確率が3倍以上にはねあがることが確認されています2).

座位時間の延長や,長時間のデスクワークによって生じる腰痛の原因の多くは,「筋筋膜性腰痛」である可能性があります.

この記事では,筋筋膜性腰痛について解説し,さらに,ご自宅でテニスボールの上に寝るだけで行える体操,「筋膜リリース」についてご紹介します.

筋膜性腰痛とは?

人間の,腰部や腹部には体を支えるための多くの筋肉があります.こうした一つ一つの筋肉を包み,さらに,つなぎ合わせる役割を果たすのが「筋膜」です.筋膜は,「姿勢保持や運動コントロー ルにかかわる重要な役割を持つ」とされています3).

この筋膜を原因とした痛みを「筋膜性腰痛」と言います.
一番の原因は,筋肉の過剰な使用による「オーバーユース」と考えられています4).
一般的に,筋肉のオーバーユースは激しいスポーツや,最大の負荷で行う筋力トレーニングなどにより引き起こされます.しかし,日常生活でのデスクワークやスマホ,テレビをみる姿勢など,同じ姿勢で長時間作業を続けることも,筋肉のオーバーユースを招き筋膜性腰痛の原因となります.

同じ姿勢で同じ筋肉を長時間使用し続けることで,筋肉が緊張し,血流の低下が生じます.この血流の低下は,筋肉の代謝不全を招き,結果として炎症反応を誘発する物質が産生され,痛みとして体が知覚するようになるとされます.

筋膜リリースとは?

筋膜リリースとは,緊張した筋膜をほぐし,関節の可動域を広げ,筋肉のパフォーマンスを取り戻すことを目的としています5).

筋膜リリースはまず,痛みの根源となっている場所「トリガーポイント」を探すことから始めます.
トリガーポイントは,筋の圧迫によって感じる,激痛や放散痛などの,筋肉の「凝り」として確認され,筋肉の感覚や動き,さらには自律神経の正常な働きを阻害しているスポットのことを言います.

トリガーポイントは,自ら痛みや凝りとして自覚し,指一本で指し示すことができる「顕在的」なものもあれば,トリガーポイントの探索によって初めて自覚する「潜在的」なものもあります.

今回は,自宅で行える腰痛体操について紹介された論文6)を元に,自宅で行える筋膜リリースの方法についてご紹介します.準備するものは,テニスボールやラクロスボールほどの大きさのボールを用いて行います(論文ではラクロスボールを推奨しています).

手順は,1:「トリガーポイントを探索する」,2:「トリガーポイントを1分間圧迫して緊張をほぐす」3:「動きを取り入れながら,さらに1分間緊張をほぐす」の3つで構成されています.次の項目からは,筋膜リリースの実際の方法についてご紹介します.

腰方形筋の筋膜リリース

腰方形筋は骨盤と肋骨をつなぎ,体を側方から支える筋肉です.長時間の左右へ傾いた姿勢や足を組む姿勢などで疲れやすい筋肉です.

腰方形筋は,背面の肋骨の一番下から,骨盤にかけて走行する筋肉であり,この筋肉の走行にそってトリガーポイントを探索していきます.(写真の□部分).

ボールの上に膝を立てた状態であおむけに寝そべり,ゆっくりとボールの位置をずらしながら,痛みや凝りを最も自覚できるトリガーポイントを探します.

トリガーポイントがみつかったら,1分間その場所でゆっくりと呼吸をしながら緊張がゆるんでいくのを自覚してみましょう.続けてもう1分間は,ボールを置いている側の立てている膝をゆっくりと外側に倒し,元の場所に戻すという動きを繰り返しながら,緊張をさらにほぐしていきます.

股関節外旋筋の筋膜リリース

外旋筋は股関節を外へ回旋する筋肉であり,骨盤と股関節を深部でつなぎ合わせ安定させる,骨盤のインナーマッスルです.

外旋筋群は,お尻の割れ目(殿列)から,ももの外側の骨(大転子)にかけて走行する筋肉です.片方のお尻のくぼみあたりからトリガーポイントを探索していきます.

ボールの上に膝を立てた状態であおむけに寝そべり,トリガーポイントを探します.トリガーポイントがみつかったら,1分間その場所でゆっくりと呼吸をしながら緊張がゆるんでいくのを自覚してみましょう.続けてもう1分間は,ゆっくりとボールを入れている方の膝を外側へ倒し,元に戻すというのを繰り返しながら,緊張をさらにほぐしていきましょう.

腸骨筋の筋膜リリース

腸骨筋は,ももを持ち上げる強力な筋肉です.長時間の座位姿勢では縮みやすく,凝りやすい筋肉です.
腸骨筋は骨盤の内側から,股関節前方の付け根に向けて走行する筋肉です.トリガーポイントの範囲はやや狭く,骨盤前方,そ径部のやや内側に位置する場所にあります.
うつぶせになり,ボールをトリガーポイントにあてます.このとき,圧迫が強すぎるようであれば,ボールの下に座布団やクッションを敷き,過剰な痛みが出ないように調節します.

トリガーポイントがみつかったら,1分間同じ姿勢でゆっくりとした呼吸を行い,緊張がほぐれていくことを自覚してみましょう.さらに,続けてもう1分間は,ボールを入れている側の膝を90度まで曲げ,曲げた方の足を内側にゆっくりと倒し,元に戻すのを繰り返し,緊張をほぐしていきましょう.

大腰筋の筋膜リリース

大腰筋は,腰椎から股関節前方の付け根に向けて走行する筋肉です.腸骨筋とともに,背筋をまっすぐにするための,重要な腰の筋肉と言えます.

腸骨筋のトリガーポイントで紹介した,骨盤前方,そ径部のわずか内側からおへそを直線で結んだ,中間点にトリガーポイントがあります.

うつぶせになり,トリガーポイントにボールをあて,圧の強さはボールの下に座布団やクッションを入れて調節しましょう.トリガーポイントがみつかったら,深呼吸をしながら1分間かけ,緊張がほぐれていく感覚を感じましょう.さらにもう1分間続けて,ボールを入れている側の膝を90度曲げ,曲げた足を内側にゆっくりと倒しながら元に戻すのを繰り返し,緊張がさらにやわらいでいく感覚を確認しましょう.

筋膜性腰痛によるぎっくり腰

ほとんどの部活動やスポーツは筋肉に負担がかかるため、若年の層においても筋・筋膜性腰痛によるぎっくり腰になるリスクがあります。特に痛みが生じやすい動作として、前傾姿勢かつ体をひねる姿勢をとったときに筋肉に強い負荷がかかり筋肉が損傷し腰痛を引き起こしてしまうことがあります。

ほかには、日々の姿勢でもぎっくり腰になることがあります。デスクワークなど長時間前傾姿勢でいることで腰回りの筋肉に負担がかかり、重い荷物を運ぶなど瞬間的に負荷がかかった衝撃で筋・筋肉性由来のぎっくり腰が起こる可能性があります。

【結論】

デスクワーク,スマホやパソコンの利用など,長時間の座る姿勢は筋筋膜性腰痛の大きな原因の一つになります.長い時間,同じ姿勢をとることで酷使された腰回りの筋肉は,筋膜リリースで改善する可能性があります.

今回ご紹介した筋膜リリースは,ボール一つで,ご自宅で簡単に行える体操です.
デスクワークでお疲れの腰痛をお持ちの方は,まずは筋膜リリースから始めてみましょう!

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参考文献
1) Woods J, HutchinsonN, Powers S, et al. The COVID-19 Pandemic and Physical Activity. Elsevier; 2020.
2) Gupta N, Christiansen C, Hallman D,et al. Is objectively measured sitting time associated with low back pain? A cross-sectional investigation in the NOMAD study. PLoS One.2015,25;10(3):e0121159.
3) 吉田 篤史.筋膜の解剖と病態.:Vol.35,No.5(2018-5)
4) Sharan D, Rajkumar J, Mohandoss M, et al. Myofascial low back pain treatment. Curr Pain Headache Rep. 2014 Sep;18(9):449.
5) Cheatham S, Kolber M, Cain M, et al. THE EFFECTS OF SELF-MYOFASCIAL RELEASE USING A FOAM ROLL OR ROLLER MASSAGER ON JOINT RANGE OF MOTION, MUSCLE RECOVERY, AND PERFORMANCE: A SYSTEMATIC REVIEW. Int J Sports Phys Ther. 2015;10(6):827-38.
6) Shariat A, Anastasio A, Soheili S,et al. Home-based fundamental approach to alleviate low back pain using myofascial release, stretching, and spinal musculature strengthening during the COVID-19 pandemic. Work. 2020;67(1):11-19.

著者情報

腰痛メディア編集部
腰痛メディア編集部

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