心と腰痛

仕事でプレッシャーがかかったときや人間関係が悪化したときに、腰痛がひどくなったという経験はありませんか?多くの腰痛には心理的ストレスや思考回路といった心の問題が関わっていることが明らかにされています。今回は、「心と腰痛の深い関係」について紹介します。

非特異的腰痛

腰が痛くて病院を受診しても、異常なしと言われてどうしようもない思いをする方が多くいます。それは、腰痛にはいくつもの原因が複合的に関わっており、多くの腰痛の正体ははっきりとわかっていないからです。
このように医師の診察やレントゲン検査などの画像診断をおこなっても原因がはっきりしない腰痛を「非特異的腰痛」と呼びます。ある研究では、この非特異的腰痛がすべての腰痛の約85%を占めると報告されています1)。

腰痛のイエローフラッグ

非特異的腰痛を悪化、慢性化させる因子として「心理・社会的因子」が挙げられ、注意する必要があることから「腰痛のイエローフラッグ(黄信号)」と呼ばれています。

代表的な腰痛のイエローフラッグには以下のようなものがあります。
・感情の問題
-恐怖心から、腰痛のことばかり繰り返し考えてしまう。
・診断と治療の問題
-恐怖心を抱かせるような診断名を告げられる。
・腰痛に対する不適切な態度と信念
-必要以上に腰痛を重大なもとのとして捉えてしまう。
・不適切な行動
-長期の安静・治療を必要以上に続け、回復を遅らせている。
・補償問題
-不適切な補償を受けることで、職場復帰への意欲が乏しくなる。
・家族の問題
-配偶者や家族の理解が得られない。または必要以上に心配をされる。
・仕事の問題
-仕事や人間関係で常にストレスにさらされている。

ストレスによる腰痛悪化のメカニズム

心理社会的ストレスが身体の機能的な症状に現れることを「身体化」と言います。「緊張型頭痛」や「過敏性腸症候群」、「心臓神経症」などが身体化に関係する疾患の代表格ですが、ストレスの症状が腰痛として現れることも多くあります。心臓神経症はストレスにより冠動脈がスパズム(血管の攣縮)を起こすものと言われていますが、腰痛にも心理社会的ストレスによる脳機能の不具合を介したスパズム、筋の循環不良によって起こるものがあると考えられます2)

また、ラットに慢性的なストレスを与え、痛みとの関係を調べた研究では、ストレスを与えられたラットは痛みを調整する脳領域である中脳中心灰白質や吻側延髄腹内側部という部位が興奮していることが明らかになり、慢性的にストレスにさらされることで痛みに敏感になるメカニズムの一部が明らかにされました3)。

慢性腰痛と恐怖回避思考モデル(Fear-avoidance model)

さらに心と腰痛の関係について理解を深めていきましょう。腰痛が慢性化する心理的要因の一つに、「恐怖回避思考モデル(Fear-avoidance model)」があります。
これは腰痛になったことで「将来、さらに腰痛が悪化するのではないか」、「もう治らないのではないか」などと悲観的に考え、不安や恐怖感を持ち、その結果必要以上に腰を大事にする意識や思考、行動をとってしまうことです。わかりやすく言えば、不安や動くことへの恐怖から腰を必要以上に過保護にしてしまうということです。
このように腰に対して過保護になってしまうことで運動や外出の機会が減ります。それによって腰を安定させるために重要な腹筋群や背筋群が衰え、また精神的にもうつ状態となることでさらに腰痛が悪化する要因が増え、痛みの悪循環を形成してしまいます。

精神・心理面から考える腰痛の治療法

それでは、痛みの悪循環はどのように断ち切ることができるのでしょうか?
慢性化した非特異的腰痛への治療法として推奨されているのが、薬物療法、認知行動療法、運動療法です。これらを単体でおこなうのではなく、3つを上手に併用することが腰痛改善への近道です。ここでは、腰痛への正しい考え方を身につける認知行動療法と、身体と心の調子を整えるのに重要な運動療法について紹介します。

認知行動療法

認知行動療法とは、物事の受け止め方である「認知」とそれと連動して実行される「行動」を変えていくことで心理的ストレスとそれに伴う身体化症状の軽減を目指す治療法です。

非特異的腰痛の治療に認知行動療法が有効であることが科学的に証明されており、日本の診療ガイドラインにおいても推奨されています。慢性的な非特異的腰痛に悩まされている方の多くが、強い心理・社会的ストレスにさらされることが知られており、恐怖回避思考に陥りやすく過度の安静により痛みの悪循環に陥っています。
認知行動療法によってネガティブ思考からポジティブ思考に変え、それに伴い前向きな行動を起こせるようになることで、腰痛のことばかり考えていた思考回路から、趣味など楽しく感じられることに注意が向けられるようになり、結果として腰痛が改善していくと考えられます。

このように物事の捉え方(認知)を変えて建設的な行動を起こすことを習慣化するためには、認知へのアプローチと行動へのアプローチを同時に行っていく必要があります。特に慢性腰痛の患者に対する認知行動療法としては、認知へのアプローチと並行して運動療法をおこなうことが推奨されています。

運動療法

運動療法には有酸素運動や筋力トレーニング、腰痛体操など様々な種類がありますが、最も重要なのは無理のない範囲で継続しておこなうことです。運動をしなくてはいけないと強迫観念にかられ、無理をしすぎて腰痛が悪化してしまっては本末転倒です。

腰痛改善を目的とした運動療法の一つにウォーキングがあり、認知行動療法の側面からも推奨されます。
万歩計やスマホのアプリなどで一日の歩数を計測し、無理のない自分に合った歩数の目標を立てます。
例えば、毎日2,000歩程しか歩いていなければ、来週は2,500歩を目標とし、達成できればまた少しずつ増やしていきます。大切なのは急に歩数を増やすのではなく、小さな目標をクリアしていくことです。目標を達成できればしっかりと自分を褒めてあげ、ご褒美をあげるのも良いでしょう。また、達成できなければ目標を下方修正するか、まずは現在の歩数を維持することを目標にしましょう。

毎日の歩数と一緒に、その時の気分や頭に浮かんだことを記録できればなお良いでしょう。
「いつもの散歩コースに桜が咲いていた」、「今週は仕事が忙しかったから目標を達成できなかった。来週は帰りに一駅分歩いてみよう」、「友達と買い物をして楽しかったから腰の痛みを忘れていた」など何でも良いので記録しておくことで、後から振り返ったときに自分の気持ちと腰痛の関係について新たな発見があるかもしれません。

まとめ

心と腰痛の深い関係について、腰痛のイエローフラッグや認知行動療法、運動療法の進め方に触れながら紹介しました。ストレスを全くためずに生活するのはとても難しいことです。ストレスはしょうがないものとして受け入れ、前向きに考えて行動することで腰痛も少しずつ改善していくのではないでしょうか。

【参考文献】
1. Deyo RA et al. Low Back Pain. N Engl J Med 344, 2001.
2. 松平 浩 他.ホントの腰痛対策を知ってみませんか.公益財団法人労災保険情報センター,2013.
3. 仙波 恵美子 他.ストレスにより痛みが増強する脳メカニズム.日本緩和医療薬物雑誌,2010.

著者情報

腰痛メディア編集部

こんにちは。 腰痛で悩む多くの方に役立つ情報を毎日お届け。それぞれが違った痛みの場所・違った痛みの度合い・違った原因をお持ちです。 一人一人が自分の腰の状況(病態)を理解し、セルフマネジメントできるようになることが私たちの目標です。記事のご意見・ご感想お待ちしております♬

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