腰痛は全人類の70%が罹患している?!

腰痛と聞くとぎっくり腰などおじいさんやおばあさんのような高齢の方がなりやすい症状を連想させる人が多いですが、腰痛は高齢者に限らず成人がなりやすいポピュラーな病気の一つです。

実際にどれくらいの人が腰痛になるのか、調べてみたところ、WHO(世界保健機関)が先進国の70%の人は生涯のうちに腰痛を経験しているというほどです。

腰痛は先進国の70%の人が罹患するかもしれないほどの症状でも、腰痛を経験したり、身近に腰痛になった人がいなければ、腰が痛いだけで大袈裟だなと考えてしまうかもしれません。

しかし、腰痛を侮ってはいけません。腰が痛いとさまざまな生活における運動に支障をきたします。さらに、腰痛の怖いところは長期的に続くかもしれないという点です。

腰痛が長引けば、身体的な腰の痛みだけではなく精神にも悪影響を及ぼしかねない症状なのです。

では、腰が痛いと生活にどう影響が出るのでしょうか?
今回は日常生活と仕事の場合における腰痛の影響について説明していきます。

腰痛が及ぼす生活への影響

腰痛が日常生活における動作の問題と関連していることは数々の研究からわかります。

タイで2009年と2013年の両年に合計42,785人の30~65歳であり、普通に生活している一般人参加者に対して行われた大規模な研究では、2009年と2013年の両方で、参加者の30%が慢性の腰痛を報告しており、参加者の約6%が屈伸困難、3.1%が100mの歩行困難、2.2%が階段の昇降困難、2.9%が着衣時の問題を報告していることが示されています。

また、高齢者の生活動作のレベルを測定するために行われた65歳以上の一般人3097人を対象としたオーストリアの別の研究では、社会人口統計学的、ライフスタイル、健康関連パラメータを調整して、オッズ比(OR)2.01(95%信頼区間、CI 1.57-2.57)で腰痛と、座る・しゃがむ・家事や階段の登り下りなどの日常生活動作との間に明確な関連があることがわかりました。

腰痛や変形性関節症、骨粗鬆症などの筋骨格系に疾患を持つ人は、これらの疾患を持たない人に比べて、日常生活動作の問題の影響を受ける頻度が有意に高い結果となりました。

最も多くの人が問題を起こした生活動作は「重いものを持つ必要がある家事」(43.9%)です。次いで、「屈伸・膝をついたり、膝をついたりする」(39.3%)、「歩行補助なしで階段を上り下りする」(23.1%)、「歩行補助なしで500mを歩く」(22.8%)と続きました。

腰痛になると腰を伸ばしたり、曲げたり、ひねったりする動作で痛みが誘発されることが多いことがわかります。

例えば床などに落ちたものを拾うのが困難になったり、ズボンや靴下など下半身の服を着るのも痛みが伴ったりするかもしれません。洗濯カゴを持ったり、洗濯物を干したりする動作も腰の痛みを誘発しやすそうです。

しかも腰痛による影響はそれだけではありません。腰痛になると日常動作が難しくなるだけではなく、腰痛があり、かつ、腰痛により日常生活動作が難しくなる場合は、より有害な方向へ相乗的に作用することも考えられます。

オーストリアの研究で腰痛がある人は階段を上り下りすることや歩くことに問題が出てきていると書かれていましたが、もし一軒家やマンションなど、外に出るために段差があるとしたらそれらが障害となり、腰の痛みを悪化させないようにと外に出るのをためらうかもしれません。

また、腰が痛いからと家事しないで横に安静にしている時間が多かったりするかもしれず、いつもより活動量が大きく低下する危険があるのです。

活動が低下すれば、その分だけ筋力が低下してしまい、体力や活発な生活を失っていくことになります。体力の衰えや刺激のない生活は免疫力等の身体機能の低下に至り、病気になるリスクを増やしてしまいます。

そして腰痛は高齢者だけではなく若くても発症することをタイで行われた研究が示しています。
上記の研究では腰痛は経済的に生産性の高い年齢層に頻繁にみられる公衆衛生上の問題であると結論しており、単なる症状とは一線を画しているものだと認識しています。

それほど一般的で社会に悪影響を与える症状ということですね。

腰痛が及ぼす仕事への影響

次に腰痛が仕事に及ぼす影響をみていきます。

原因が不明で慢性的な腰痛を持つ女性医療従事者219人を対象に、痛みのレベル、身体機能、仕事能力を調査したフィンランドの研究では、仕事能力の向上と最も強い関連があるのは、仕事による腰椎の労作の低下、抑うつの低下、仕事に関連した恐怖回避信念の低下であったと報告されています。

※恐怖回避信念(Fear-Avoidance Beliefs)とは1983年にLethemらによって提唱された概念であり、ある痛みに対して特別な理由もないのに、痛みがだんだん悪くなるなどと信じ込んだりしてしまう人は痛みを強く恐れてしまい、痛みを回避する傾向がみられること。

つまり、腰の痛みや疲れ、ネガティブな感情、仕事によって痛みが増すかもしれない恐怖が多ければ多いほど仕事がしにくくなるということです。

この論文には、「仕事に関連した痛みの恐怖や仕事後の腰の疲労感が高い女性は、より多くの痛みを経験し、身体機能と仕事能力が低下している。また、身体能力が低い人はより多くの腰部の疲労感を経験していた」とも記載されていました。

痛みや痛むことへの恐怖があれば、身体能力や仕事の能力・意欲が下がります。その上、身体能力が低くいと、腰の痛みや疲労に敏感になってしまいますので、それがさらに腰が痛む要因となってしまう負の連鎖が続く形になってしまいます。

長引く腰痛の怖さはここにあります。
腰痛を放っておいたりすると身体や精神を疲れさせる悪循環を作りやすくなってしまいます。

似たような研究は日本でも行われています。
2019年に日本で行われた研究では、慢性的な腰痛を患っている労働者の仕事の生産性低下と恐怖回避信念との関連を調べています。

研究によれば恐怖回避信念を図る指標であるTSK(疼痛関連恐怖)スコアが高ければ高いほど生産性の低さと有意に関連していました。(比例OR = 1.10、95%CI = 1.06-1.15)
より詳しくみると、仕事の生産性を細かく分けたそれぞれの作業においても関連が示されています。(時間管理:比例OR = 1.04、95%CI = 1.01-1.08;精神的対人要求:比例OR = 1.08、95%CI = 1.04-1.12;身体的要求:比例OR = 1.04、95%CI = 1.01-1.08;およびアウトプット要求:比例OR = 1.06、95%CI = 1.02-1.10)

つまり腰痛があり、それが強ければ強いほど痛みを回避しようとする気持ちが働き仕事に積極的になれなくなっていきます。それどころか腰痛があると出社する意欲も抑えられ、ひいては仕事を欠勤するリスクも高くなっていきます。

二つの研究は、慢性的な長引く腰痛には運動恐怖症がセットになっており、それが腰痛患者を恐怖回避信念に導き、特定の動作や活動を避けるようになることを示唆しています。
そして、この痛みに対する恐怖が強ければ強いほど、身体機能障害の増加、痛みの増加と関連しており、また腰痛による心理的な苦痛の増加も助長しています。

余談ですが、腰痛によりストレスを感じていると、痛みに対して過敏になってしまい、それがまたストレスになります。腰痛はうつ病・不安・ストレス関連障害などの一般的な精神障害の発症に寄与する可能性があり、腰痛を患っている方は併発することが多いと言われています。

腰痛の不安による悪循環

腰痛は運動に対する不安を生じさせ、運動回避(恐怖回避信念)につながり、健康状態から遠ざける原因になります。そうなることで日常生活の動作や仕事の能力などの低下の問題をさらに増大させる可能性があります。

さらに、一般的な精神障害、たとえば、うつ病、不安、およびストレス関連の障害などもまた、しばしば腰痛と共起し、日常生活のパフォーマンスに悪影響を及ぼし、事態をさらに悪化させていきます。

腰痛を放っておくとそれがさらに腰痛を強める原因となりますので、次第に痛みは強くなり日常生活も満足に行えなくなっていくのです。

まとめ

腰は運動する際のかなめになる場所なので、腰が痛むと全体的な運動能力の低下、健康状態の悪化、生活の質の低下、職場での仕事の能力の低下や欠勤の増加など、非常に多くの有害な健康上の問題と関連しています。

何より、自分自身が健康であり、健康であることの満足度を決める重要な要因は、自分が自立した存在であることや自分の行動を自分で決められていると認識することです。
腰痛によってこの両者が侵害されてしまうと自身の生活自体の満足度も低下してしまう可能性もあるため、ただの腰痛とたかをくくらずに腰痛の早期の発見と、予防に努めていきましょう

ⅰ Karin Pieber , Katharina Viktoria Stein, Malvina Herceg, Anita Rieder, Veronika Fialka-Moser, Thomas E Dorner:Determinants of satisfaction with individual health in male and female patients with chronic low back pain:J Rehabil Med
. 2012 Jul;44(8):658-63. doi: 10.2340/16501977-1010.
ⅱ Stamm TA, Pieber K, Crevenna R, et al. Impairment in the activities of daily living in older adults with and without osteoporosis, osteoarthritis and chronic back pain: a secondary analysis of population-based health survey data. BMC Musculoskelet Disord. 2016;17:139. doi: 10.1186/s12891-016-0994-y.
ⅲ Annika Taulaniemi , Lotta Kuusinen, Kari Tokola, Markku Kankaanpää, Jaana H Suni;
Bio-psychosocial factors are associated with pain intensity, physical functioning, and ability to work in female healthcare personnel with recurrent low back pain;J Rehabil Med. 2017 Aug 31;49(8):667-676. doi: 10.2340/16501977-2261.
ⅳ Tsuboi Y, Murata S, Naruse F, et al. Association between pain-related fear and presenteeism among eldercare workers with low back pain. Eur J Pain. 2019;23(3):495–502. doi: 10.1002/ejp.1323.

著者情報

腰痛メディア編集部
腰痛メディア編集部

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著者情報

鈴木 法経(すずき のりみち)
鈴木 法経(すずき のりみち)

保有資格

看護師

経歴

独立行政法人東京山手メディカルセンターにて看護師として勤続後、

神奈川にて訪問看護師として勤続中。ライター歴1年。

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