はじめに

 寒い季節になると膝や肘といった関節に加えて腰の痛みが出現する人も少なくはありません。さらに現代人はスマホやパソコン、ゲームなどをする時間が増えたことで姿勢が悪くなりストレートネックと呼ばれる状態の人が増え、はっきりとした統計データはありませんが約8~9割の人がこのストレートネックな状態であるとされています。寒さによる血行障害、筋肉のこわばり、ストレートネックによる筋肉の過緊張、猫背姿勢を誘発するなど腰痛を引き起こす原因ともなっています。

血行障害による腰痛

 降雪地域や寒冷地帯では冬になるにつれて体が冷えてしまいます。体の冷えにより血管が収縮してしまい筋肉に十分な血液が送られない状態となります。冷たくなった体は血液も冷やしてしまい冷たい血液が体中に送られます。内臓などはある程度の発熱が可能なため多少冷えてしまった血液でもそこまで大きな問題とはなりませんが、手足、関節や腰などはあっためる術を持たないために冷えたままとなってしまいます。みなさんも経験はあると思いますが、冬に洗い物をすると手先がかじかみ、スムーズに動かなくなると思います。これは指の筋肉が寒さにより収縮してしまうためです。そして冷えによる寒冷刺激は冷たさから痛みへと変化することもあります。
 腰の場合は足元の冷えも大きく影響します。腰の真下にあるお尻は、皮下脂肪が多く発熱する術を持たないためにすぐに冷えてしまいます。体育館の冷たい床などに座っているとお尻がひんやりとした経験はないでしょうか。このお尻の冷えが腰を冷やしてしまい血管を収縮させ腰周辺の筋肉のこわばりを引き起こし腰痛へとつながります。この冷えてこわばった状態で腰に負担のかかるような作業や動作を行ってしまうとぎっくり腰の原因や筋肉を痛めてしまうことになります。そのため特に秋から春にかけての体が冷えやすい時期には冷えによる腰痛に注意が必要です。

ストレートネックが引き起こす腰痛

 人間の体は面白く、例えるならば積み木のようなものです。どこか一つのバランスが崩れると他の部位に問題が生じます。人間の体は断面から骨格をみるとまるで“S”字のように緩やかなカーブを描いておりこれを生理的湾曲といいます。この構造のおかげで私たちは多少の衝撃で腰の骨を折るなどのトラブルなく過ごすことが出来ています。人間の背骨が棒のようにまっすぐだった場合、ジャンプなどして衝撃が加わると重力の影響ですべて下半身の骨に負担がかかり中でも腰の骨に負担がかかり骨折しやすくなります。生理的湾曲は人間の体を守るのに重要な役割を果たしていることがわかります。
 近年、前述したように若者を中心にストレートネックという言葉が有名となりました。これは首の生理的湾曲が崩れてしまった状態で猫背の原因の一つとされています。猫背になってしまうと背中の筋肉に大きな負担がかかると同時に腰に大きな負担がかかります。それにより腰周辺の筋緊張を誘発し腰痛の原因となります。意外と関係ないと思われがちな首が腰痛に影響することとなります。

温泉による筋緊張の緩和

 日本でははるか昔より温泉という文化が存在してきました。この温泉文化はわが国最古の歴史書でもある日本書紀や古事記にも記載されているものです。つまりは奈良時代からすでに庶民の間で温泉という文化が始まっていたということです。この温泉文化が時代を経て江戸時代には湯治という文化が誕生しました。湯治とは医学での治療が難しいとされた病気を温泉場で泊り入浴することで治療をするというものです。腰痛に関しても湯治が有効であるとされており、現在でも多くの人が温泉などで湯治を行っています。
 現代科学により湯治による腰痛や疾病への影響や効果が検証されてきました。特に腰痛について言及しますと医学的観点からみると炎症性の疾患以外の腰痛であれば改善が期待されるとされています。まずは言うまでもなく冷えによる腰周辺の疼痛緩和には温泉が有効です。お湯に入り体を温めることで交感神経が作用し異常興奮している腰周辺の神経を落ち着かせ筋緊張を緩和します。また冷え切っていた血流を温めることで循環が改善し冷えによる痛み刺激が改善し疼痛が改善されていきます。これは猫背による筋緊張にも共通します。ただしここで注意が必要なのは、猫背による筋緊張の場合には温泉だけでは完治はしないということです。
 猫背の場合には姿勢が修正されない限り症状の改善はあるものの一時的な改善で終わってしまいます。ここでおすすめなのが温泉と合わせてストレッチ、マッサージや整体などを行うことで姿勢を修正していくことです。温泉に入り筋緊張を緩和した後でストレッチや整体、マッサージを行うと姿勢の修正がしやすいといわれています。自身が猫背で腰痛がある人などはぜひとも取り組んでみてください。

温浴効果で奇跡が起きた!?

 以前にこんな体験をしたことがありました。90代の女性Aさんは脳梗塞により寝たきりとなっていました。ある日、肺炎で病院へ運ばれてきました。その時の第一印象はまるでエビでした。重度の関節拘縮により円背になり丸くなってしまっていたのです。拘縮で周囲の筋肉は過度な緊張状態となり安静にしているだけでも腰痛などの激しい訴えがありました。鎮痛剤を使用するなどしても痛みは治まりませんでした。どんなにリハビリを行っても肘、膝は伸びることはありませんでした。そこでお風呂に入浴してもらうことにしスタッフ総出で入浴を手伝いお風呂の中でストレッチやリハビリを行いました。すると驚いたことに今まで伸びたことのなかった肘や膝が少しずつ伸びていったのです。その入浴は退院するまで毎日続けました。すると奇跡といっても過言ではありませんが、肘と膝が伸びたのです。さらには腰の痛みの訴えがなくなり過度な筋緊張が改善されました。体を温めながら何かをするということ健康を維持するうえで大きな意味を持っています。腰のために行ったことが実は腰だけではなく全身の健康に影響します。反対のことをいえばどこかが不健康になると腰やその他の部分に影響を与えてしまうことがあるということです。改めて伝えますが、常に体は温めて冷やさないようにしていきましょう。

最後に

 日本の歴史が示すように私たち人間は寒くなると体に不調をきたし健康状態を維持するのが難しくなります。そのために温泉という文化が登場し人々は常に体を温めることにしました。その中で体を温めることで病気を治すという湯治という文化も生まれました。しかし時代が移り変わり寒さだけが腰の痛みを引き起こすものではなくなり、スマホやパソコン、ゲームといった日常生活に溶け込んでしまったものが腰の痛みを引き起こす原因となってしまいました。日常生活に溶け込んで切り離せない以上、私たちは別な手段で健康を守る必要があります。例えばストレッチや体操をするなどごくわずかな工夫をするだけでたくさん健康を守ることにつながる動きがあります。また、毎日の生活で誰もが行う入浴もしくはシャワーで体を温めてそれにストレッチや体操、マッサージを加えていき正しい姿勢を保ち腰痛の予防や全身の健康を守ることを大切にしていきましょう。再度伝えますが、腰の健康を守るためにすることは長い目でみると必ず全身の健康につながります。健康を失っては取り戻すことは出来ません。今目の前にある健康をいつまでも守っていけるようにしていきましょう。

<参考文献>
・細田多穂 「運動器障害理学療法学」 南江堂
・島崎修次 「標準救急医学」 医学書院
・内田淳正 「標準整形外科学」 医学書院
・日本温泉気候物理医学会 https://www.onki.jp/

著者情報

腰痛メディア編集部

こんにちは。 腰痛で悩む多くの方に役立つ情報を毎日お届け。それぞれが違った痛みの場所・違った痛みの度合い・違った原因をお持ちです。 一人一人が自分の腰の状況(病態)を理解し、セルフマネジメントできるようになることが私たちの目標です。記事のご意見・ご感想お待ちしております♬

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