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体重100kgをゆうに超える肉体がぶつかり合う、日本の国技「相撲」。大きな体同士が満身の力を込めて押し合う姿は迫力ある一方で、相撲取りの多くがケガに苦しんでいるのも事実です。

そのケガの中でも、特に腰痛と相撲取りの縁は深く、たくさんの力士が脊椎の疾患を抱えているのです。脊椎疾患の原因は多岐にわたりますが、一例をあげれば、「突っ張り」が脊椎に与える負担が大きいことや、重い自体重を支えるのに腰が耐えられないなどが指摘されています。

一昔前までは、未経験の状態で相撲部屋に入る力士が多くいました。しかし近年では、高校・大学の全国大会で優勝した「アマチュアチャンピオン」が、鳴り物入りで角界デビューすることも珍しくありません。特にこのような若年層の方は、より長く相撲競技を続けるためにもケガの予防策は必須なのです。

しかし相撲取りの場合、一般男性よりもはるかに大きな体格を抱えて、激しい肉体運動をしなければなりません。そのため力士とケガは切っても切れない関係にあることは事実ですが、ケガを予防する具体策にはどのようなものがあるのでしょうか。

この記事では、相撲取りとケガの関係について、どこよりも詳しくお伝えしています。ケガの中でも、特に力士が発症しやすい「腰痛」について深掘りしています。記事の後半では、腰痛の予防と治療についても触れていますので、ぜひ参考にして下さい。

競技として相撲に取り組んでいる方、大相撲ファンに最も読んでほしい内容になっております。ぜひ最後までお付き合いください。

相撲取りと脊椎疾患の関係

正確な頻度の抽出は難しいですが、相撲取りの脊椎疾患は全外傷の約10~20%を占めているとされます。その頻度は、足・膝関節の疾患と並んでトップクラスの多さなのです。

脊椎は頭側から、「頚椎」「胸椎」「腰椎」「仙椎」と、4種類に分かれていますが、なかでも頻度が高いのが「頚椎疾患」と「腰椎疾患」になります。

相撲取りの頚椎疾患

一般的に「頚椎疾患」といえば、「頚椎椎間板ヘルニア」が有名ではないでしょうか。椎間板は脊椎と脊椎の間に挟まれた、クッション性の組織のことです。この椎間板が脊椎から突出することで、神経が圧迫されるのが「頚椎椎間板ヘルニア」の病態になります。

👉頚椎椎間板ヘルニアでは運動療法(リハビリ)が大切な理由

一方、相撲取りの「頚椎疾患」は少し事情が異なります。つまり、頚椎疾患の多くが「外傷」に起因する「頚椎損傷」なのです。

相撲の魅力の一つに「立ち会い」がありますが、頚椎損傷はその衝突力によって引き起こされることが多いのです。すなわち、立ち会いにおいて相手の胸板に頭を下げて潜り込んだ場合、頚椎が過度に屈曲して損傷を起こすのです。他にも、腋の下に頭が入った状態で投げられたり、のしかかられたりしても、頚椎に屈曲損傷が生じます。

頚椎は7個の骨から構成されていますが、どの骨が損傷するかによって症状も変化します。手の痺れや運動障害が代表的な症状ですが、重症になると、首から下が完全に麻痺したり、呼吸困難に陥るケースもあるので命に関わることもあります。

一度、頚椎損傷を患うと、回復後も競技への復帰が難しいケースも多く見受けられます。よって、頚椎を保護するような立ち会いや取り組みの工夫が必要なのです。

相撲取りの腰椎疾患

冒頭でも触れましたが、相撲取りにおける腰痛の頻度は非常に高いものがあります。膝・足関節疾患と並んで、力士の外傷のトップを走ります。

腰痛は一般的に、「急性腰痛」と「慢性腰痛」に大別されることが多く、力士の内訳をみてみると、おおよそ「急性腰痛:慢性腰痛=1:3」という統計結果になっています。

具体的な急性腰痛の疾患としては、「ぎっくり腰」が最も多くみられます。ぎっくり腰は、腰周囲の筋肉や筋膜の炎症に起因する腰痛のことです。すなわち、中腰姿勢で相手を持ち上げたり、突っ張りで相手を押したりなどの動作が原因で、筋肉に炎症がおきるのです。

加えて、力士特有の急性腰痛としては、「まわし」が原因になることも少なくありません。特に入門から間もない若手力士は、倒れる際に真っ直ぐ後方に倒れがちです。この倒れ方では、まわしの結び目が腰

を強打し、筋肉を痛めてしまいます。糖尿病を合併する相撲取りの場合ですと感染にも弱く、傷が化膿するケースもあるので注意が必要です。

また、若年層の相撲取りの場合、「腰椎分離症」にも危惧すべきです。中学高校時代は骨格の発育期にあたり、この期間の腰椎への負担は骨の成長を阻害しがちです。その後も長く競技を続けるためにも、腰椎分離症には注意をしましょう。

相撲取りの腰痛が慢性化しやすい理由

力士は食べることも仕事です。入門してから体重は徐々に増加し、お腹も前方に突き出るようになります。こうなると、体の重心が前方へ移動するため、自分の体を支えるためには相当の背筋力が必要になります。

加えて、取り組み中は、巨大な相手を持ち上げる必要もあり、さらに背筋に負荷がかかります。ある計算式によると、力士の仙棘筋(腰周囲筋の一つ)には1,000kgを超える負荷がかかるそうです。

当然、このような背筋への過大な負荷は、筋肉疲労や脊柱起立組織の破綻につながり、慢性腰痛の原因になります。そのため、背筋力が養われていない若い力士ほど、急性腰痛が多いという報告もあります。また逆に、格付けが高い相撲取りほど、背筋力も強いことが分かっています。

もう一点、腰痛が慢性化しやすい理由があります。それが「大相撲の番付制度」です。

大相撲では、ケガなどの理由で本場所に出られないと「休場」といって不戦敗扱いになります。不戦敗が続けば、当然翌場所の番付にも悪い影響がでてしまいます。

つまり、「腰が痛くても、おちおち休んでいられない」という状況なのです。ぎっくり腰などの急性腰痛の場合、必要以上の安静は良くありませんが、過度な運動も厳禁です。急性腰痛を正しく対処しないことで、慢性腰痛へ発展するケースも少なくないのです。

番付制度があるからこそ盛り上がる大相撲ですが、相撲取りの身体を思うと、少し酷な制度なのかもしれません。

相撲取りの腰痛の治療

先ほどもでてきましたが、力士の腰痛の大きな原因に「背筋力不足」があげられます。自己の体重を支え、対戦相手を持ち上げるためには「背筋力の強化」が必須です。四股だけでなく、普段のメニューに背筋を意識したウェイトトレーニングを取り入れることで、腰痛の改善・予防に効果が見込めます。

また、筋肉の柔軟性もケガ予防のためには必須です。ストレッチの部位としては、腰の筋肉だけでなく、腹筋やハムストリングも意識して柔軟することを心がけましょう。腹筋とハムストリングは、その一部が骨盤とも付着しています。そのため、意外に思われますが、腰痛とも関係が深い筋肉なのです。股割り・四股踏みだけでなく、腹筋・ハムストリングのストレッチもメニューに加えることで、腰の柔軟性を高めましょう。

まとめ:相撲取りと腰痛は深い関係。正しく予防して長い競技人生を。

今回の記事では、相撲取りと腰痛の関係についてお伝えしました。

相撲取りにケガは付きものですが、なかでも脊椎疾患とは深い関わりがありました。頚椎・腰椎はともに、体幹を構成する重要な組織です。正しいトレーニングを取り入れれば、より競技人生を送れる可能性があります。ぜひ参考にしてみて下さい。

参考文献
【力士の外傷・障害】力士の脊椎疾患
若野 紘一(川崎市立井田病院), 山田 公雄
臨床スポーツ医学 (0289-3339)16巻2号 Page139-143

著者情報

腰痛メディア編集部
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