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バレーボール選手は子供から大人、男性女性問わずに多くの人が取り組んでいるメジャースポーツの1つです。
その一方で、実は腰痛を発症しやすいスポーツという側面もあります。

一口に腰痛といってもその中には様々な種類があり、それぞれ病態や対処法は全く違います。

医療者だけではなく、選手や指導者も腰痛の種類や特徴を知っておくことで、適切な予防や発症時の対応ができるようになります。

そこで今回はバレーボール選手に起きやすいとされている、4つの腰の怪我について特徴や診断法、治療法をそれぞれ解説していきます。

男女別にみたバレーボール競技者に起きやすい怪我 H2
バレーボール競技者を対象に男女別に起きやすい傷害を調査した野田らの報告では、腰痛では第1位が男女ともに筋・筋膜性腰痛だったとしています。

それ以下は男性で2番目に多いのが椎間板性腰痛。
それが進展して生じることの多い椎間板ヘルニアは男性で4位、女性で3位。
腰椎分離症は女性では2位、男性で3位となっていました。

それぞれ腰痛が生じる疾患ではありますが、全く状態が異なります。
以下に
・筋筋膜性腰痛症
・椎間板性腰痛
・椎間板ヘルニア
・腰椎分離症
について解説していきます

筋筋膜性腰痛

病態

その名の通り、背中の筋肉や、その表面を覆っている筋膜に何かしらの変化が起きることで、腰痛が生じている状態です。

切り返し動作やジャンプ動作などにより筋肉に損傷が生じたり、不良姿勢により筋肉や筋膜の血流が滞ったり、低活動によって組織が固くなったり…
様々なメカニズムで生じることが報告されていますが、いまだその定義や病態に関しては一定の見解を得られていません。
そのため同じ筋・筋膜性腰痛だったとしても個人の特徴に合わせて対処法を本人と医療者が一緒に考えていく必要があります。

筋肉や筋膜の痛みであるため、骨や関節の場所には一致しない部位に痛みを生じるのが特徴的です。

痛い部位の筋肉に力を入れたり、伸ばしたりすると痛みが再現されることが多く、
痛みの感じ方は、肉離れのような鋭い痛み、筋肉痛のような重だるいような痛み、肩こりのような疲労感を強くしたような痛みなど、多彩な種類があります。

診断

レントゲンやMRIなどの画像検査により骨や関節に傷害がなく、
筋肉に圧痛初見がある。力を入れたら痛い。伸ばしたら痛いなどの身体症状を総合的に確認した上で診断されます。
筋肉や筋膜に肉離れなどの変化が伴えばMRIによって明確に確認できる場合もあります。

代表的な治療法

薬物療法

ロキソプロフェンなどの消炎鎮痛剤や、日本では湿布薬なども多く用いられます。

ブロック注射

筋肉が固くなり、痛みの原因部位が明確な場合には、同部位に対するトリガーポイントブロック注射を行うこともあります。
また、何らかの原因により筋膜同士の滑りが悪くなって生じていると判断された場合には超音波エコーを行いながら、その滑りを良くするために生理的食塩水を注入する治療方法である「エコーガイド下筋膜リリース」を行うこともあります。

物理療法

痛い部位を温める温熱療法や超音波療法、腰を長軸方向に牽引する牽引療法、マッサージなどを行い一時的な疼痛の減少を図ることもあります。

リハビリテーション

筋筋膜性腰痛は痛みが生じた筋肉に負担がかかる姿勢を繰り返すことで発症する場合がほとんどです。
その動作が改善されれば再受傷を予防することにも繋がるため、その動作の癖を改善するためのリハビリテーションが必要になります。

椎間板性腰痛

病態

椎間板性腰痛は積み木のように積み重ねられた、腰の骨と腰の骨の間に位置するクッションの役割をしている「椎間板」への刺激によって生じる腰痛です。
椎間板自体には神経や血管が非常に少ないため本来は痛みを感じにくい組織とされていますが、慢性的に椎間板に負担のかかりやすい人は、椎間板に血管や神経が新たに作られ、痛みを感じやすくなっている場合があることが指摘されています。

猫背になりやすかったり、生活の中で下にかがんで重いものを持ち上げたりすることの多い人は椎間板に日々ストレスが集中しやすく椎間板性腰痛が生じやすいです。
また、バレーボールは基本姿勢やレシーブの際に、腰をかがむことが多いため、椎間板性腰痛が起きやすいと予測されます。

診断

腰をかがむ姿勢(腰椎屈曲)をとったり、座位を取っている際に腰痛が出現、増悪したりする場合は椎間板性腰痛の可能性があります。
しかしそれだけでは筋筋膜性腰痛との鑑別が困難であるため、筋肉を押しても痛くなかったり、マッサージをしても痛みが変わらないなどの所見を合わせて診断を行います。

また身体所見と合わせて、レントゲンやMRIなどの画像検査を行い椎間板の形や炎症の程度、血管新生の有無などを確認し、診断の精度を高めます。

最も多く行われているのは椎間板造影検査です。
椎間板内に造影剤を直接注入し、普段感じている痛みと同じ痛みが再現されるかで診断に役立てます。

代表的な治療法

薬物療法

消炎鎮痛剤や痛みを感じる中枢神経系(脳・脊髄)に作用して痛みを緩和するアセトアミノフェンなどが選択されます。

椎間板ブロック注射

椎間板に対して直接、麻酔薬等を注入し痛みの減少を図ります。

手術治療

椎間板に対する負担を減少させるために脊椎を固定してしまう「脊椎固定術」を用いることも稀にありますが、脊椎固定術を行った人たちと、入念なリハビリを行った人たちでは痛みの改善具合にあまり差はなかったという報告も多くみられることから最近ではあまり行われていません。

リハビリテーション

椎間板に負担のかかるかがんだ姿勢や、痛みの原因となった日々繰り返される動作を修正できるようにリハビリテーションを行い、椎間板に対するストレスを減らすことで、治癒の促進、再発予防を図ります。

椎間板ヘルニア

病態

前述した椎間板の表面で形を保つための膜の役割をしている「線維輪」が破れてしまい、その内容物である「髄核」が飛び出てしまった状態を「椎間板ヘルニア」といいます。
椎間板のすぐ後ろには体を動かしたり感覚を感じたりするのに非常に重要な「脊髄神経」が通っています。
髄核が後ろに飛び出て、その脊髄神経を圧迫し足腰に麻痺が生じてしまうこともあるのが椎間板ヘルニアの特徴です。

診断

診断基準に統一されたものはありませんが、腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドラインでは以下の5つの診断基準を提唱しています。
1.腰・下肢痛を有する
2.安静時にも症状を有する
3.SLRテスト(画像参照)70°以下で痛みが生じる(高齢者では絶対条件ではない)
4.MRIなどの画像所見で椎間板の突出がみられ、脊柱管狭窄症所見を合併していない
5.症状と画像所見が一致する

これらの基準に多く当てはまるようであれば椎間板ヘルニアの可能性が高いとされます。
👉腰椎椎間板ヘルニアかな?と思ったらセルフチェックと注意点

代表的な治療法

適度な安静

麻痺などの神経症状がでている際には適度な安静を取ることも重要です。
しかし、14日以上の安静と、管理下での注意深い生活の継続ではその後の痛みに差はないとしている研究もあることから、体力が落ちないよう安静にしすぎないというのも重要な視点の1つです。(P C Vroomen、1999年)

薬物療法

状態に合わせて消炎鎮痛剤やアセトアミノフェン、筋弛緩薬。神経に作用するプレガバリンなどが選択されます。

神経ブロック

痛みがあまりにも強い場合には、痛みの軽減を図り椎間板や脊髄神経を守っている硬膜外へのステロイド注射や神経ブロック注射を行うことがあります。

手術治療

足の脱力や、感覚障害などの明らかな麻痺を生じている場合には手術が適応となります。また、麻痺がみられなくても6~12週で痛みが改善されなければ手術を考慮することが一般的です。
手術の内容としては突出した髄核の摘出や、レーザーで焼く「椎間板蒸散術」などが行われます。

腰椎分離症

病態

腰椎分離症は発育期に腰椎の後方に位置している腰椎椎弓の関節突起と呼ばれる部位に起こる疲労骨折を指します。

腰椎と腰椎をつなげている関節突起が骨折してしまうことによって、炎症が生じ痛みを感じたり、腰椎が前後にずれることで脊髄神経を圧迫して麻痺やしびれなどの神経症状を生じたりすることがあります。
特徴として
・胎児や新生児には認めない
・出生時から歩いたことのない人は起こらない
・体感運動の多いスポーツ選手に多い
・上腕骨や大腿骨などの疲労骨折と同じような経過をたどる
などが報告されており、遺伝的な原因よりも日々の活動に伴うストレスが原因となって発症すると考えられています。

診断法

脊柱の骨折を伴うため、基本的にはレントゲンやCT、MRIなどの画像診断が中心となります。

代表的な治療法

骨折部がくっつく(癒合)することが腰椎分離症の治療目標になります。
初期に発見できればくっつく可能性は100%と報告されていますが、発見が送れて変形してくっついてしまったり、癒合が不十分で本来動かない部分が動くようになったりしてしまう「偽関節」という状態に陥れば、その後の癒合は難しくなります。
そのため早期に発見し、硬性体幹コルセットにて固定することで癒合を目指していくこと第一選択になります。
状態に合わせて体幹の筋力トレーニングやストレッチなどの腰痛体操や、運動療法を行っていきましょう。

手術治療

発見が遅れてしまい癒合が見込めず、それによって神経症状を生じる場合には脊椎固定術などの手術が選択されます。

起こりやすい怪我を知って適切な予防・対処をしよう
今回紹介した腰痛に関連する怪我はどれも放置していると慢性化したり、麻痺が残ったりする可能性があります。

早期の受傷予防や対応によって、その後のバレーボール人生を左右する可能性すらあるのです。

選手も指導者も、それぞれの怪我についてしっかりと知識を持っておくことで、腰痛が生じた際には「早めに病院へ行く」という選択をできるようになります。

本記事で解説した知識を前提として、競技中に腰痛が生じた場合には無理をせずにまずは病院に受診することを心がけましょう。

出典:
藤井成徳ら(2004年)『高校バレーボール部員の腰痛に関する研究』
日本整形外科学会(2019年)『腰痛診療ガイドライン』
野田 優希ら(2017年)『性差によるバレーボールの傷害発生の特徴』
P C Vroomen,et al(1999年)『Lack of effectiveness of bed rest for sciatica』
Kazuta Yamashita,et al(2018年)『Utility of STIR-MRI in Detecting the Pain Generator in Asymmetric Bilateral Pars Fracture: A Report of 5 Cases』

参考:日本整形外科学会

著者情報

腰痛メディア編集部
腰痛メディア編集部

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