2020年春、厚生労働省から腰痛に関して、驚くべき調査結果が発表されました。なんと、国内に2800万人にも及ぶ方が、腰痛に悩まされているそうなのです。驚くべきことはそれだけではなく、腰痛に悩まされている方の約85%が「原因が特定しきれない腰痛」によって苦しんでいることも判明しました。つまり、こんなにも現代医学が進歩しているにも関わらず、医師の診察やX線やMRIなどの画像の現代医療の検査をもってしても特定しきれない「原因不明の腰痛」によって、悩んでいる方が8割もいるというのです。
 しかし、整形外科学会の調査によって、その原因不明の部分が少しずつクリアになりつつあります。実は、整形外科的初見が認められない腰痛の原因には「ストレス」が起因している可能性が浮上しているのです。
 ストレスというと、吐き気や頭痛、下痢といった内科的な症状と関係があるイメージが強いかもしれません。しかし今、ストレスが原因となって腰痛が起こりうること、そしてストレスを軽減することで腰痛の改善につながるかもしれない、という新たな事実が調査によってわかってきます。
 今回は、そんな「ストレスと腰痛の深い因果関係」、そしてそれらをふまえた「誰でもできる対処方法」についてご紹介させていただきます。

腰痛に影響する3つの要因と「ストレス」

 腰痛の発生には、大きくわけて3つの要因が関与しています。この章では、腰痛に影響を及ぼすとされている「3つの要因」をまずは整理していきましょう。

動的要因

 動的要因とは、腰痛を誘発しやすい「動き」や「姿勢」が日常的に多い方、あるいは仕事でそういった動作や姿勢を余儀なくされる方に多く見られます。例えば、重量物を持ち上げることが多い方、長時間同じ姿勢で仕事をする方、深く腰を曲げることが多い方は、特に当てはまるといえるでしょう。動的要因の影響による腰痛に悩む方には、「介護職」や「土木工事」などの現場職の方が多い傾向にあります。

環境要因

 環境要因とは、すなわち腰痛を誘発しやすい「環境」に身を置いている方、身を置かざるを得ない方に関連します。例えば、寒い環境で過ごしている、車の運転で長い時間振動を受ける、といった事例が挙げられるでしょう。環境要因が影響した腰痛に悩む方には、「タクシードライバー」や「トラックドライバー」といった職種の方が多い傾向にあります。

個人的要因

 個人的要因とは、「個人的な疾患や背景」によって、腰痛が誘発される場合を指します。骨粗鬆症や慢性腰痛、加齢などの要因がこちらに当てはまります。そして、今回クローズアップしている「ストレス」も、この個人的要因に当てはまります。整形外科学会の調査によって、「仕事に不満がある」「人間関係に悩んでいる」といった心理的要因によって、腰痛を誘発が誘発されることがわかりました。職種や年齢を問わず誰しもが抱えうるこの要因は、現代社会とは切っても切り離せない要因といえるでしょう。しかし、ストレスが起因する腰痛の場合には、X線やMRIなどの画像所見上は異常が見られないため、対処が遅れてしまう傾向にあります。そして気づいた時は既に慢性腰痛となってしまい、一生付き合っていかなければならない、といったケースも少なくありません。ストレス=心の負担、という時代は終わりました。過度なストレスは症状が身体化し、我々の健康をむしばんでいくのです。

 以上のこれらの3つの要因は、単独で腰痛を引き起こす場合もあれば、複数の要因が複雑に絡み合って腰痛を誘発する場合もあります。

ストレスが腰痛を引き起こすメカニズム

 こちらの章では、実際にどのようなメカニズムでストレスが腰痛を引き起こしているのか、そのメカニズムを「ストレスと脳の関連性」と「ストレスと身体の関連性」の2つの側面から、さらに掘り下げていきます。

ストレスと脳の関連性

 近年解明されてきたのが、痛みをコントロールする「ドーパミンシステム」と腰痛の関係です。
2009年9月発刊の『臨床整形外科44巻9号』に掲載された『慢性腰痛とドーパミンシステム』によると、腰痛の痛みとドーパミンシステムの因果関係について、以下のように解説されています。

 人間の脳は、痛いはずの状況であっても「ド―パミン」という脳内伝達物質が大量に分泌されます。このドーパミンが放出されると、感じる痛みが軽減される「オピオイド」という物質が放出されます。このオピオイドの鎮静作用が効くことで腰痛が軽減される、という脳のメカニズムが「ドーパミンシステム」と呼ばれているのです。この人間にもともと備わっている脳のシステムによって、私達の痛みはコントロールされています。

 しかし、慢性的にストレスを抱えていたり抑うつ状態にあったりすると、ドーパミンがきちんと脳内で産生されないため、オピオイドも十分に分泌されずに痛みの抑制機構が働かなくなってしまうことがわかりました。またストレスや不安、うつが存在した場合、痛み刺激に対するドーパミンの反応性が低下してしまい、十分なオピオイドが産生されないため、さらに痛みが増幅することも明らかになりました。これによって、さらに当事者は腰痛の痛みを強く感じ、その痛みがストレスになりさらに痛みが増強する、といった「負のスパイラル」が生まれて腰痛が悪化してしまうのです。

 また、ドーパミンと同様に、痛みのコントロールに大きく関わってくるのが「セロトニン」という神経伝達物質です。セロトニンは感情や気分のコントロール、精神の安定に関わってくる重要な物質と言いれています。そしてセロトニンは、精神作用以外にも「腰痛の痛みも軽減」してくれることがわかりました。しかし、ストレスや抑うつ状態にある人はセロトニンの分泌が不足し、痛みを十分に和らげることができないことも明らかになっています。つまり、ストレスによって心理的負荷がかかっていると、ドーパミンとセロトニンの分泌が十分にこれからの脳の痛みのコントロールシステムの働きを鈍らせてしまうため、腰痛の痛みが緩和されず、むしろ痛みが増強する可能性が高いのです。

ストレスと身体の関係性

 そして、ストレスによるメンタルへの影響は、身体にも現れてきます。まず、ストレスによる心への負荷がかかることで、我々の姿勢は無意識のうちに崩れる傾向にあります。うなだれたり、猫背になったりと姿勢が崩れてしまうのです。そういった姿勢は腰に負担をかけ、腰へのストレスも蓄積されてしまいます。
 また、ストレスは脳機能の不具合を引き起こし、筋肉の血流量の低下も引き起こすことがわかっています。筋肉の血流量が低下することによって、腰や肩の血行も悪くなり、腰痛が生じやすい身体状態となってしまう可能性が高まるのです。

 上記のメカニズムが複雑に絡み合うことで、ストレスに起因する腰痛が発生します。ちなみに、ストレスによる腰痛は、長期間に渡るストレスの心理的負荷によって症状が身体化するため、慢性腰痛に分類されます。反対に「急性腰痛」と呼ばれるものは、いわゆるぎっくり腰などを指します。こちらは急に重いものを持った、あるいは運動などで急に背骨を捻転した場合に起きる腰痛です。ここで注意したいのは、「自分はまだ長期間のストレスは感じていないから大丈夫」と楽観視しないでください。ストレス耐性には個人差がありますので、無理は禁物です。

もしこのまま対処しなかったらどうなってしまうの?

 ここまで読んでギクリとしている方、あるいは病院の受診などを検討されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。あるいは、まだ「自分は大丈夫」と考えていらっしゃる方もいますか?
 ここからは、もしこのままストレスが起因する腰痛を放っておいた場合、将来的にはどうなってしまうのか、一緒に見ていきましょう。

 まず急性腰痛・慢性腰痛を問わず、腰痛に悩んでいる多くの方が、日々の痛みにストレスを感じ、日常や仕事の中で「この姿勢はまた痛いのではないか」「もっと痛くなるのではないか」という不安や恐怖を抱いていることがわかりました。「もう一生治らないのはないか」という強い恐怖心を抱く方も少なくありません。これらの思考は「恐怖回避思考」と呼ばれています。  
 2019年に日本理学療法士協会にて発表された『腰痛患者と恐怖回避思考評価の関連性について』によると、調査対象とした急性・慢性腰痛症候群の両者ともに「腰痛発生後の恐怖回避思考の評価結果が悪化している」という結果を認めています。つまり、腰痛に悩むほとんどの方がこの恐怖回避思考を持ち、動作をするたびに「大丈夫だろうか」といった不安や恐怖心がつきまとっている、ということがわかりました。

 この思考が強い場合には、日常生活や仕事上にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

 まず、動作をするたびに常に腰痛への不安や恐怖がよぎるため、無意識的に過度に腰をかばう動作となり、さらなる腰痛の悪化を引き起こす可能性が考えられます。腰をかばうあまりに、腰以外の身体の部分を痛める可能性もあります。また、この恐怖回避思考自体が心理的負荷になり、ストレスが蓄積されます。腰をかばいすぎて身体を動かすことを避けることで、さらに脊椎や筋肉の柔軟性が失われ、さらに腰痛が悪化する懸念もあるでしょう。つまり放っておくと、どんどん「負のループ」から抜け出せなくなってしまうのです。

 最終的にはプライベートや仕事にも大きく支障をきたし、趣味を諦めざる負えなくなる、または仕事面でも転職を余儀なくされるかもしれません。

今すぐできる6つの対処方法

 ここまで読んで「自分も当てはまるな」「どうしよう」と不安や恐怖感を感じていらっしゃいませんか?まだ大丈夫です。今から対処することで、あなたの腰痛が改善する可能性は十分にあります。この章では、今すぐできる対処方法について6つご紹介していきます。

整形外科の受診

 まだ腰痛に悩んでいるけれど、実際に病院を受診されていない方もいらっしゃるのではないでしょうか。まずは整形外科に行き、医師の診断を受けましょう。もしかすると、自分では「ストレスの腰痛だろう」と感じていても、実際は画像上の異常がある可能性も否定できません。まずは整形外科を受診し、医師の診断を得ることをおすすめします。また、整形外科には大抵の場合、理学療法士や作業療法士が勤務しています。プロの施術を受けることで、腰痛が緩和することもありますので、まずは整形外科の受診をしてみましょう。

整体や接骨院の受診

 整形外科で画像上の異常がないことや、整体や接骨院の受診許可が得られたら、整体や接骨院への受診をおすすめします。いきなり整体や接骨院に行くと、原因がわからないのに施術を受けて、余計に腰痛が悪化する可能性もありますので、まずは整形外科を受診してから行くことが望ましいでしょう。整体や接骨院で、腰回りのこわばりをほぐすことで腰痛が緩和することはもちろん、リラックス効果も得られるので、ストレス軽減やリフレッシュ効果も期待できます。

日常生活動作や環境の見直し

 日常生活の動作の中で、無理な姿勢をとってはいませんか?また、過ごす環境はどうでしょうか?姿勢は毎日のことなので、日常生活の中でも対策をとることが大切です。下の物を拾う時には腰を曲げずに膝を曲げて拾う、下に重いものを置かずに高い場所に置くなど、動作方法や環境を整えることもよいでしょう。座っている椅子の座面が低い場合には、高い座面の椅子に変えることで腰への負担も軽減します。

仕事の調整

 仕事でやむを得ず腰に負担のかかる場合は、コルセットなどを着用してみましょう。また、上司に仕事の内容や、仕事量を調整してもらえないか、掛け合うこともよいでしょう。ドライバー職や事務職の方は、椅子に工夫をすることで対処ができます。腰の背骨の部分にクッションやタオルを入れて、腰のカーブをサポートしてあげましょう。また、腰をサポートしてくれる座椅子を使うこともおすすめします。

メンタルクリニックの受診

 精神面の影響が大きい方は、メンタルクリニックの受診をおすすめします。メンタルクリニック、あるいは精神科と聞くと、敷居を高く感じられるかもしれませんが、決してそんなことはありません。薬を処方してもらうことで、少し気分が軽くなったり、明るくなったりと、心の負担が軽減されます。もちろん、絶対に薬を飲まなければならない、ということもありません。まずは医師の先生に相談するところからでも大丈夫です。臨床心理士のカウンセリングを受けることで、腰痛との向き合い方が変わることもあるかもしれません。心のSOSを見落とさないでくださいね。

運動やストレッチを生活の中に取り入れる

 痛めにくい身体づくりも大切です。運動やストレッチを取り入れることで、腰回りの筋肉を強化し、柔軟性を高めてあげましょう。また、適度な運動はストレス解消効果もあり、ストレスの軽減が期待できます。屋外を散歩するもよし、自宅でヨガやストレッチをするもよし、なにか教室に通ってみるもよし、自分にあった身体の動かし方を見つけてみましょう。

腰痛ドクターを使ってみよう!

 ここまで読んでみて、あなたの腰痛の悩みは少しでも解決しましたか?実は今、病院に受診する前に、簡単にスマートフォンで腰痛の診断ができるアプリがあるのです。それがこの「腰痛ドクターアプリ」です。腰痛ドクターアプリでは、自動問診で自宅にいながら、詳細な問診を受けることができます。その他にも、腰痛に悩める人にとって嬉しいコンテンツがたくさん掲載されているのです。もしかするとあなたの腰痛の悩みが解決するヒントがあるかもしれません。
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著者情報

腰痛メディア編集部

こんにちは。 腰痛で悩む多くの方に役立つ情報を毎日お届け。それぞれが違った痛みの場所・違った痛みの度合い・違った原因をお持ちです。 一人一人が自分の腰の状況(病態)を理解し、セルフマネジメントできるようになることが私たちの目標です。記事のご意見・ご感想お待ちしております♬

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